阪神ジュベナイルＦ

春の段階で今年のクラシックを席巻するのではないかとまで言われた福永祐一だが終わってみれば世代の一番馬ワールドエースは皐月賞２着、ダービー４着で故障しジョワドヴィーヴルもチューリップ賞３着後に骨折が発覚し春を棒に振り未だ復帰には至らず、まさかの無冠である。おまけにお手馬だったロードカナロアはスプリンターズＳを優勝し香港スプリントで偉業に挑戦している。もちろんその背中に福永の姿はない。

武者修行と称した夏のアメリカ遠征も散々な成績で観光旅行が目的だったのではと揶揄される始末で昨年のリーディングジョッキーもまさに立つ瀬がない。更にここにきて強力な後ろ盾だった社台グループもあまりの不甲斐なさに見切り始めたとの噂もある。結果が全ての勝負の世界だから当然の成り行きだがこのまま抵抗なく福永時代の終焉を迎えてしまうのか瀬戸際である。しかしこの逆境で福永祐一は大切な事に気が付いた。

『義理と人情』調教師でさえ馬主の顔色覗いをする現在の競馬では廃れた言葉だがサークルの奥底にはやはり人と人との繋がりがあってほしい。そこにドラマが生まれる。栗東・北橋修二厩舎からデビューした福永の父である福永洋一の代から浅はかならぬ縁があったのが協栄牧場。当時自厩舎には重賞でも善戦を続けていたオークス２着馬ゴールデンジャックがいた。四位や武豊を主戦とするほどの馬だったが馬主の福永祐一を育てたいという決意の下、デビュー間もない新人にこの実績馬を任せた。

だがそれで即結果が出せるほど甘い世界ではなく幾度も負けたがゴールデンジャックの手綱を預け続けた。結局母では勝利を挙げることは叶わなかったが全弟のスターリングローズや仔のサイドワインダーなどゆかりのある馬たちを重賞制覇に導いている。時は流れ一流ジョッキーの仲間入りを果たした絶頂期に「騎乗馬を頼まれるようになった今だからこそ恩返しがしたい」と語らせたのはゴールデンジャックの仔プリンセスジャックの存在だ。

社台系の有力馬に跨ることも出来たがそれを断ってつきっきりで調教を施しこの一戦に賭けてきたその心意気を買いたい。周りに馬がいると怖がるなど臆病な面があるなど癖も少なくないが一つ一つ改善に努めてきた。「調教メニューなどを調教師と相談しながらやるのが楽しい」と話すようにまさに一丸となって馬を造っている。札幌の新馬(1500m)で４角を抑えきれない手応えで進出していったあのスピードは非凡だった。

２戦目のききょうＳは中団のインでうまく折り合うと直線は馬群を割って抜け出てローガンサファイアとの追い比べを制した。無敗での重賞制覇が期待されたファンタジーＳは隣のゲートで暴れていた馬の煽りを食う恰好で立ち遅れ、流れに乗り切れなかった。直線も勝ったサウンドリアーナが経済コースを通る中、大外を回しての４着だから悲観する内容でもない。むしろ控えてもある程度走れた点から距離延長にも耐えうる希望を見出せる。

母ゴールデンジャックは中距離を中心に活躍したし半兄サイドワインダーもマイル重賞の勝ち馬。そこに父はマイルＣＳ連覇や天皇賞(秋)を制した輝かしい実績を持つダイワメジャーだから距離が長いはずがない。行きたがる気性面は築かれた人馬の信頼で克服する。最終追い切りは軽い内容だったがテンションを上げすぎないようにと最大限の配慮。きっちり態勢は整った。今こそ積年の恩を返す時。感動のゴールまであと一歩だ。

ファンタジーＳ２着のローブティサージュが強敵。４か月ぶりや初距離を考えればかなり厳しい条件だったが外枠からスムーズに進めて直線も鋭伸、プリンセスジャック同様に外を回ったロスがあっての０秒５差は距離延長で十分に埋まる差だ。祖母リッチアフェアーはヴィクトワールピサやアサクサデンエンの母ホワイトウォーターアフェアの全妹にあたる良血で父ウォーエンブレムの単調なスピードを母父のシングスピールの重厚さが補うバランスの取れた好配合だ。

アルテミスＳをレコードで駆けたコレクターアイテムの決め手は世代随一。デビューから３戦連続での上がり３３秒台は並大抵ではない。外回りの阪神マイルで割り引く理由は特にない。近年は父ダービー馬が勝って翌年のクラシックに羽ばたいているように父ハーツクライで近親にベガという血統背景も文句なし。配当的旨みを捨てれば軸はコレか。ファンタジーＳ(１０着)は決定的な敗因があったストークアンドレイも展開次第で浮上の余地がある。