フローラＳ

ハーツクライのベストレースと言えばディープインパクトから大金星を奪った４歳暮れの有馬記念だろう。５歳時のドバイシーマクラシックも鮮やかだったしキングジョージ３着も実に惜しかったが無敗の三冠馬に待ったをかけた事やハーツクライ自身のもどかしい戦績を塗り替える本格化を告げたレースでもあり印象に深く刻み込まれている。

ただデビュー２戦目のきさらぎ賞で３着、３戦目の若葉ステークスを制しクラシックに駒を進めると皐月賞こそ惨敗に終わるも京都新聞杯優勝からダービー２着に盛り返すなど早い時期から頭角を現していた馬でやや晩成に映るが決して競走生活の比重が後期に偏っていたわけでもない。

トニービンは直仔からエアグルーヴ、ジャングルポケット、ウイニングチケット、ベガなどクラシックウィナーも誕生させているが母系に入ると凱旋門賞を勝ったその重厚な血がONになってトランセンドやリンカーン、アーネストリーなど熟成期間が長めになる。ハーツクライの母アイリッシュダンスも重賞を勝ったのは遅かったから余計にその傾向が強い。

３歳春に一定の成長力を見せるも善戦止まり、ただ３歳秋?４歳にかけて再び上昇する二段階進化を遂げるのがハーツクライ産駒の特徴だ。ウインバリアシオン、ギュスターヴクライ、ジャスタウェイ、カポーティスターなどはみんな３歳春に高い性能を示しながらクラシックには届かなかったが着実にステップアップを果たしている。

古馬になってからの成長力という点においては比較的早熟視されるディープインパクトを凌いでもおかしくないと思える。◎テンシンランマンは母父サクラユタカオー×母母父ミルジョージでハーツクライとはアウトブリードで、ハーツクライ自身もアウトブリードの配合だったからアウトサイダー血脈が強い。

アウトサイダーは血の活性化をもたらす雑種強勢のような効果を生む。要するに現代競馬の申し子たるサンデーの血がテスコボーイ、シーホークなど老朽化が進んでいる血統の底力やタフさを蘇らせる。最近だと同じように母系が主流と外れたサクラ血統だったナムラクレセント(父ヤマニンセラフィム)がこれに近いかたちで天皇賞(春)や菊花賞を３着するまでになった。

テンシンランマンはこの効果に加え、Princely Giftやナスキロのしなやかさ、柔らかさを受け継いでいるから直線の長いコースでよく切れる。母父サクラユタカオーは天皇賞(秋)を勝っているし、ハーツクライも東京2400mＧ１で２着２回、東京の中距離はベストの条件だし道悪も心配ない。試練の大外枠だが「ここでキッチリ勝って堂々とオークスに向かいたい」と珍しく熱い意気込みを語る田中勝春。ではすっきりと勝ってもらいましょう。

ナンヨーユナの忘れな草賞(２着)は全体の上がり37秒6の消耗戦が完全に味方した感じで東京の開幕週だとひと雨必要だと思っていたが土曜の午後から本当に結構な雨量となった。父ジャングルポケットは重馬場のダービー、牝系にいるケイキロクも重馬場のオークスをそれぞれ勝っており上がりが掛かってくれば出番。

ディープインパクト産駒は東京2000m[19-6-9-31]で勝率29.2％、複勝率52.3％の上に回収率も単複ともに100％近くこのコースでは逆らい難い。エバーブロッサムはDanzigとフォーティナイナーでややパワーが強調された配合だがフラワーＣの直線一気の伸びを見る限りはストライド的にも東京が合っているし、何より半姉にＶＭを勝ったエイジアンウインズ、フローラＳ３着のキュートエンブレムがいるのが心強い。

セキショウは母父サンデーでシンボリクリスエスの成功配合。2走前のテンシンランマンと0秒1差から互角の力関係を認めたい。グッドレインボーは昨年２着のアイスフォーリスと同じステイゴールド×クロフネの配合で東京で決め手勝負になると劣るがスタミナはあるし道悪を味方に粘り込みたい。

イリュミナンス(父マンハッタンカフェ)は母スキッフルのトニービン×Nureyev×ハイインローでバテずいい脚を持続できる馬だがクイーンＣのような展開だと鋭さ負けするからとにかく先に仕掛けたいがこの鞍上だと溜めそうなのが難点。

スイートサルサは父デュランダルとHabitat4×5のマイラー的な爆発力に秀でた馬でデビューから４戦連続の上がり最速は感服するばかり。シーザリオのいる母系だし折り合いさえつけば距離延長も問題ないが渋った馬場だと末脚の威力が半減する。