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2013/05/19 13:00
オークス
鮮やかに咲き誇った桜と対照的に漂う緊張感ある空気、訪れる一瞬の静寂。ゲートを飛び出した直後に行きたがった馬を鞍上が優しくなだめる。与えられた試練をパスした瞬間、勝ちを確信した。残りの時間は用意されたかぼちゃの馬車ならぬVロードに導かれ、シンデレラストーリーは完成した。
アユサンが勝利の余韻に浸るその翌日、浜崎あゆみも無事15周年の区切りを迎えたのだった。神に愛された星の下に生まれた者同士が運命のニアミスをしたというところ。そうあることではない。今度は両者が紡ぎだす不思議な力の後押しもまずない。大きく開かれたスターへの扉を自力で駆け上りたい。
チューリップ賞までの序章が『希望と挫折』、桜花賞を題材にした第一章が『苦労の末に掴んだ栄光』であれば第二章は『時代に求められたスターの誕生』だ。あゆは1999年あたりからメディアに取り上げられて大ブレイクし時代の寵児となった。この流行は時代に選ばれた要素が大きかったと考えられる。
経済の発展を優先させた社会は人々に多くの幸福をもたらした。しかし物質的に恵まれた一方で、精神的に貧しくなっていった。感謝すべき物質的な満足がいつしか普通となってしまった。そんな時代のバランスをとる必要性を担いカリスマ的な存在となったのがあゆ。
デビュー当初から「詞に共感する」とよく言われていたようにあゆ本人の生き方や世界観が枯渇した人々の心を潤した。あゆの華々しい活躍に呼応するように社会が癒しややすらぎを得た。栄枯盛衰。メディアであゆの名を聞く機会もめっきり減ったがこれでいいのだ。永遠に続く流行りなどない。時代が心の豊かさを取り戻した証拠でもある。
その意味でアユサンも競馬界が失ったものを取り戻す、時代に求められたオークス挑戦になる。桜花賞で優勝したC.デムーロとのコンビを解消した。もっとも桜花賞前日に主戦丸山元気が落馬負傷で急遽乗り替わりとなった背景を考えればごく自然な流れかもしれないがこれが普通に映らないのが今のドライな人間関係を現している。
スポットで参戦する外国人偏重の騎手起用が圧倒的に増え、地方で優秀な成績を収めてきた経験値の高い騎手の活躍も目立つ。一時代を築き長らくトップに君臨した武豊でさえ馬集めに苦労するほど生え抜きのJRA騎手の立場は苦しい。その中で若手はチャンスさえ与えらず日々追い込まれていく。
たしかに外国人騎手や地方騎手の技術やスピリットは素晴らしい。生え抜きのJRA騎手が劣っているのも事実。だからと言って目先の利益や欲を追った先に何が待っているのか。数年前からある国技の低迷に歯止めが利かないのと同じ理由だ。弱肉強食、競争の世界だがあまりに露骨な乗り替わりなどには興が冷める。
それだけに今回の乗り替わりは支持したい。オーナーである星野氏はデビュー当時から目をかけていた丸山を迷わず再指名したという。男気溢れる決断だ。丸山は通算228勝と伸び悩む若手が多い中では活躍している部類だが重賞は63回騎乗して1勝。G1となると今回が5回目だから経験不足は否めないし、技術的にもはっきり未熟だ。
それでもやらなければならない時がやってくれば逃げるわけにはいかない。アユサンを最も知るのは紛れもなくこの男だ。桜花賞で味わった無念を渾身のライドにぶつけたい。進化を続ける桜の女王と背信覚悟の男が先頭でゴールを決めた時、時代は声を揃えてこのコンビを受け入れるだろう。