日本ダービー

注目の皐月賞は前半中団に控え、道中で徐々に進出したロゴタイプが直線に入り、鮮やかに抜け出すと、早めに仕掛けたエピファネイア、ぎりぎりまでインで脚を温存したコディーノの追撃を阻み、まずは一冠奪取を決めた。４着にも弥生賞馬カミノタサハラが入り、戦前の予想通り四強が上位を占める結果となった。

皐月賞で１?４番人気が掲示板に揃って載るのは２年連続。こういう年は勢力図が固まり切っていることの証明と述べた昨年はダービーで皐月賞３着のディープブリランテが巻き返し、１着ゴールドシップ、２着ワールドエースも掲示板は確保した。

基本的には皐月賞上位馬の力関係を改めて見直し、同時にＴＲ組が割って入る余地がどれほどあるのか見極めることが必要になる。この観点からすれば昨年に近い結果がもたらされる可能性が高いと思えるが今年の皐月賞組にはダービーをはっきり意識できるような馬が見当たらなかった。

ロゴタイプはナリタブライアン以来の朝日杯ＦＳ→皐月賞を制した歴史的な馬だが大箱の東京2400mは未知数。エピファネイアも燃えすぎる気性ゆえに距離延長は不安だし最終追い切りをいつものＣＷ→坂路に変更したのも疑問(ソエの影響がある様子)コディーノもエピファネイア以上に繊細でマイラー的気性だ。

皐月賞は最終週にも関らず「1分58秒0」のレコード。Ｈレベルの決着が一見ダービーでの活躍を予感させるが、これが大きな落とし穴。[前半5F58秒0-後半5F60秒0]こういう緩急に乏しい、後傾ラップがそれぞれの弱点を消したことがロゴタイプ、エピファネイア、コディーノの好走できた主要因だったと考えられる。参考までに朝日杯ＦＳと皐月賞の前後半3Fのラップを比較するとよく分かる。朝日杯ＦＳ[前半3F33秒9-後半3F36秒1]皐月賞[前半3F34秒1-後半3F35秒9]

皐月賞が1分58秒台だった年は過去３回あるが02年1着ノーリーズン(ダービー2番人気8着)2着タイガーカフェ（ダービー5番人気10着）04年1着ダイワメジャー(4番人気6着)2着コスモバルク(2番人気8着)09年1着アンライバルド(1番人気12着)2着トライアンフマーチ(6番人気14着)3着セイウンワンダー(3番人気13着)いずれも人気を裏切っている。

これはスタミナなどの中距離的な資質よりもスピードの持続力や俊敏性が問われるマイラー的資質が優先されるために起きる逆転現象だろう。ダービーに限らずチャンピオンディスタンスで頂点に立った馬は一頭もいないのが如実に物語っている。

父ディープインパクト、鞍上武豊。まさかこういうプロフィールの持ち主をダービーで応援する日がくるとは想像もしなかったが主役はやはり◎キズナだ。新馬戦で放った一筋の光が紆余曲折ありながらもついに最高峰の舞台まで導いた。弥生賞敗戦後の毎日杯で豪快な差し切りを決めると陣営は皐月賞をパスし迷わず矛先をダービーへと向けた。

余力を残しつつ、かつ内容ありきでの勝利が絶対条件と注文の多かった京都新聞杯も自信を深めさせるには申し分ないものとなった。スタートで他馬に寄られて最後方からの競馬となったが人馬は慌てず騒がず呼吸を整えてじっくり時を待つ。直線に入り、鞍上がＧＯサインを送ると抜群の反応で一気に加速し、内で食い下がる馬たちを悠々と交わし去った姿はまさに偉大な父の生き写し。危なげない勝利でダービー制覇に王手をかけた。

あとは皐月賞組との力関係だけ。皐月賞を経験している馬に一日の長があるのは歴史的に見ても明白。例年ＴＲ組が敬遠されがちなのはこの部分で大きく劣るから。キズナも弥生賞で権利を逃したからこそ裏街道を歩まざるを得なかった背景は認める。ただキズナは直線の進路取りで致命的なミスを犯しながら弥生賞でエピファネイアやコディーノと０秒１差５着。勝負付けが済んだと言えるほど実力差がないことは万人一致ではないか。

しかも大跳びの馬には窮屈な中山2000mから東京2400mへの舞台替わりは確実にいい。２歳時から定評のあった高い操縦性に雄大なフットワークから繰り出される切れ味鋭い末脚。キズナが全能力を発揮するに相応しい条件が揃った。

往年の手綱捌きや卓越した勝負勘を取り戻しつつある武豊を中心に広がってきたキズナの輪。回り道の末に辿り着いた夢舞台。2010年生まれ7197頭。最後に笑うのはキズナだ。