スプリンターズＳ

たとえセントウルＳで２着に敗れてもロードカナロアの王者たる絶対的地位に揺るぎがないことは単勝オッズ１倍台前半の圧倒的支持に集約されている。政権交代を望む声は少数に過ぎない。しかし競馬が１対その他大勢の前提の上にある以上、ほんの僅かな隙や綻びを縫って牙城を壊す候補は認めるべきである。

過去日本にも優秀なスプリンターは何頭もいた。ただロードカナロアが登場するまでスプリントＧ１３勝の壁は厚かった。フラワーパークもトロットスターもビリーヴもローレルゲレイロもカレンチャンもみんなスプリントＧ１は２勝止まりだった。

短距離は気性的に前向きな馬が多く、長い距離とは違いスタートからゴールまで息つく暇なく全速力で駆けるがゆえに肉体的にも精神的にも消耗が激しく必然と競走馬としての寿命も削られる。それだけに世界まで制したロードカナロアは稀有な存在だが自らの限界に挑戦して見事に己の価値を高めることに成功した安田記念が寿命を縮める引き金を引いた可能性はある。

１５年前の冬。国内外でＧ１５連勝中だったあのタイキシャトルでさえスプリンターズＳ連覇はならなかった。自身の無双ぶりや取り巻く周囲の状況を考えれば負けるはずはなかったのに３着まで落ちた。断然の一強、離れた２番人気、まるで圏外に置かれた３番人気以降…。あの冬の光景に似ている。

当時大金星を挙げたのはマイネルラヴ(７番人気)タイキシャトルの威光に敢然と立ち向かった吉田豊渾身の騎乗だった。２着のシーキングザパールは２番人気ではあったが単勝は10.5倍。あくまで主役の引き立て役でしかなかった立場を利用して武豊が一か八かの追い込みを選択した。打倒王者の合言葉は「決め打ち」だ。

スプリント界の不思議と言えばスプリンターズＳを連覇したサクラバクシンオーの産駒がスプリンターズＳで勝てないのも謎。過去[0-0-2-18]３着も１回は02年新潟開催時(ショウナンカンプ)ただダッシャーゴーゴーの２着入線→４着降着など近年惜しいシーンも見受けられる。論理的に説明できる事象でもないしスプリントの重鎮にこのレッテルは貼るべきではない。

とはいえ長年背負ってきたこの呪縛が解かれる時に大きな力が働くことは確実。それがスプリントの歴史を塗り替えることになっても驚けない。スギノエンデバー一世一代の末脚炸裂に◎だ。重賞は勝っているがサクラバクシンオー産駒としては決してデキのいい部類ではない。実績だけならグランプリボス。脚質も父に似ず、まるでＳＳ系。しかしＧ１ではこういう極端さが男の武器となる。

今年７戦して３着以内に入ったのは１回だが(７)(６)(７)(２)(５)(７)(５)着で1200m戦に限れば最大着差は高松宮記念の「0秒4」ある意味安定はしている。この間、上がり3F最速が３回、２位１回、３位１回で常時32秒後半?33秒前半の脚を使っている。

春の高松宮記念は２着ドリームバレンチノとは０秒２差。上がり3Fは互角だったし位置取りと直線で捌くのに苦労した分の差だ。函館ＳＳは外に持ち出してからの鋭さは目立ったし、北九州記念もトップハンデ57キロで０秒３差なら悲観する内容ではない。

フォーエバーマークにハクサンムーンが絡んでいく展開であれば中山らしい前傾ラップは想像に難くない。しかも昨年と違って外差しも十分に届く馬場状態。12年北九州記念の時が16番、今年の鞍馬Ｓが13番、そして過去２回の中山1200mでの３着時も11番と14番。スムーズに追撃の態勢に切り替えられる外枠は好走への大きな後押しになる。

最終追い切りは軽めで当週の日曜に実質の追い切りを済ませるのがこの馬のパターン。【4F50.4-3F36.4-2F23.9-1F12.2】の自己ベストを馬也で叩き出した辺りに状態の良さが伝わってくる。

母父はレインボーダリアやスカイディグニティ、今年のエスポワールシチー、ハタノヴァンクールなど今なおその力を示しているブライアンズタイム。大舞台での底力にかけては申し分なく激走を支えてくれるはずだ。

相手は当然ロードカナロア。反応ひと息だったセントウルＳ(３着)を叩いて気配が一変した昨年の３着馬ドリームバレンチノ、中山1200m２戦２勝のサクラゴスペルが本線。以下マジンプロスパー、サドンストーム、サンカルロまで。