ジャパンＣダート

世紀末に産声をあげたジャパンカップダートは１４回目の今年を最後にその短い歴史の幕を閉じる。中央のダートＧ１はフェブラリーＳのみで地方交流もあまり盛んではなかった時代に砂のチャンピオン級に用意された海外馬を相手にその名を轟かす晴れの舞台のはずだったが創設から数年はアタマ数こそ揃えたが結局は海外からの参戦は２３頭という寂しさで、阪神移設後は不人気ぶりに拍車がかかり、09年のティズウェイ以降は参戦ゼロの有り様。“ジャパンカップ”と銘打ったこのレースの存続可否は時間の問題だった。

ただしこれはあくまで国際競走というテイにはそぐわないという話。有力馬が分散する芝のＧ１とは違い、Ａ級馬が一堂に会すこのレースが面白くない訳がない。クロフネが魅せた「2分05秒9」の独壇場。唯一の外国馬のＶとなったフリートストリートダンサーは日本の総大将アドマイヤドンを破っての大金星。

砂のディープインパクトの称号そのままに３歳で制し、不治の病を克服した６歳で奇跡の復活を遂げたカネヒキリは異なるコースでの同一名Ｇ１勝利の大偉業、軽快な逃げで人馬一体となって颯爽と駆け抜けたエスポワールシチー、そしてレース史上初の連覇を達成したトランセンドなど名勝負を語るには事欠かない。

錚々たる歴代の名馬たちが欧米列強の強豪と一戦交える姿を見たくもあったが国内の頂点を決定するレースとしては十分に役目を果たしていた。そしてＧ１という最高ランクのレースとしての在り方や意義を示してくれた功績を讃えたい。今年も新旧Ｇ１馬総勢９頭による豪華競演。ラストに恥じぬ白熱の攻防を期待したい。

今年に入って８戦Ｇ１(３)勝を含む６勝２着１回３着１回とほぼ完璧な成績を収めてきたホッコータルマエがやはり首位最右翼になる。３歳の頃から強力な先行とタフネスさには定評のあった馬がピークに向けて上昇するにつれて一寸の隙もない王道戦法を完成させてきた。実に７戦で上がり最速もしくは２位を記録しているように後方勢の逆襲の芽を摘んでいる。

成長途上だった昨年のジャパンカップダートが３着。圧勝したニホンピロアワーズに早めに捲られる苦しい展開だったが差し返す根性もみせるなど価値ある一戦。順当ならば勝ち負けと考えるのが筋だろう。ただこの馬を目標に仕掛けていく馬は多く、レースを進める上で不利な状況が作られていくことは想定しておくべき。

エスポワールシチーやトランセンドも当然追われるべき立場だったが純粋な逃げを打つ馬と番手でレースをする馬ではターゲットにされた時に生じる負担の差が大きい。例えば回りを包囲されてからでは遅いから他馬の動き出しに注意を払いつつ、早目の競馬を心掛けることになる。自ずと脚の使い所も前倒しされるからいつもの伸びが保証されるとは限らない。

今年も先行陣のラインナップは強力だがＧ１級の消耗戦に向く馬は少ないし、そもそも経験で劣る馬もいる。その中でホッコータルマエがどの程度踏ん張れるか。こういう展開になった時、急坂を登って逆転候補に躍り出そうなのは２年連続２着のワンダーアキュートやフェブラリーＳの覇者グレープブランデーだったり、不良のダービーで３着しているベルシャザールのような実際に底力の裏付けがある馬だろう。

昨年のローマンレジェンドは６連勝という快進撃でダート界統一に王手をかけていたが１番人気４着。ダート路線の層の厚さと現実をまざまざと突きつけられた結果に終わった。３歳で勝つような天才型でない限り、やはりＧ１を勝つにはもうワンランク以上の経験と鍛練が必要だった。ましてローマンレジェンドは条件戦から這い上がった叩き上げである。

昨年最も不足していたのが底力の面だろう。それは厳しいステージに身を置く事で自然と養われていくものである。昨暮の東京大賞典こそ制したが春はかしわ記念、帝王賞で見せ場なし。こういう時もある。疲れが癒えぬまま中途半端な状態だったことで今年は夏場を充電に充てて心身ともにリセット。

これが大正解だったと分かるのには多くの時間を必要としなかった。みやこＳではローマンレジェンドらしい覇気や闘志が戻っていた。休み明けで５９キロ。最初から結果は二の次、大切なのはもう一度頂点を目指していける気力の有無。それが確認できた。陣営もそれを感じ取ったのだろう。この中間はどの馬よりも追い切り、本数ともに強化。昨年とはまた違った意味でのスタートラインに立てた。

ジャパンカップダートで１番人気の経験がある馬で連対しなかったのは翌年以降に出走機会のなかった第１回のファストフレンドだけ。ラストイヤーで名誉挽回したい。

『失敗とは転ぶことではなく、転んだまま起き上がらないこと』この名優の言葉をローマンレジェンドに贈ろう。