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2013/12/23 08:00
有馬記念回顧・(フェアウェルS)
限界を越えて精根尽き果てるまで戦い静かに散ってゆく美学はある。しかし圧倒的な支配力を誇示したままに華々しく花道を飾ることができるのは王者のみに許された美学。この日のオルフェーヴルは清々しいまでに美しかった。歴代2位となる8馬身差の劇勝。最後にして最強の瞬間を目の当たりにした。
パドックではまるで覇気がなかった。返し馬も落ち着いていた。幾度となく手を焼いた高い能力の裏返しでもある気性面の激しさが鳴りを潜めていた。オルフェーヴルの活力の根源である闘争心の欠如を危惧したがすべては杞憂だった。
前半は黙々と爪を研ぐ鷹。野獣のような荒々しさがその目に宿った3コーナーからは狩り場と化し、4コーナーでは先行していたグループがその勢いに気圧されて失速。直線は無人の荒野を疾走するが如く己の道を爆進していった。
史上初めて二桁着順を経験しながら三冠馬となった。阪神大賞典では世紀の逸走、そして驚異の追い上げ。独走状態で世界一に手がかかりながらするりとこぼれた凱旋門賞。死力を尽くした肉弾戦の末に破れたジャパンカップ。チャンピオンホースでありながらこれだけ敗戦シーンの方が鮮明な記憶として刻まれるのも珍しい。
通算21戦12勝は歴代の名馬と比べると決して優れた数字ではない。ただいくら負けても最強馬の座は譲らなかった。オルフェーヴルは最強馬として相応しい堂々たる立ち振る舞いを貫いたのだった。そして多くの賛辞の声を背にオルフェーヴル時代は終焉した。
第二の馬生に旅立つためにおこなわれたレース後の引退式。その見知らぬ儀式を前に戸惑う素振りもみせたがすぐさま王者の顔に戻り、記念撮影を拒み続けたのは現役のプライド。夜の帳が降りた中山競馬場。カクテル光線に照らされる栗毛の馬体が一層映えた。長い間日本の競馬界を支えてくれたことオルフェーヴルに感謝の言葉を伝えたい。「ありがとう。そしてお疲れ様でした。」
歓喜に包まれたハッピーエンドの一方で来年はオルフェーヴルの8馬身後ろの競馬を見つめていく現実がある。勝ちタイムが「2分32秒3」上がり3F「36秒7」は良発表ではあったが週中の雨を含んだ相当タフな馬場コンディション。適性の有無と展開が勝負を分けた。
オルフェーヴル宿命のライバルの意地をみせたウインバリアシオンが2着。屈腱炎明け2戦目の病み上がりでの成績だけに評価はできるが失った時間の長さを改めて突き付けられた1秒3差だった。順調ならば大きなレースで主役を担っていくだけの力がある。
昨年の覇者ゴールドシップはジャパンカップ惨敗から立ち直った形の3着。こういう消耗が激しい馬場でチャンスがあると思われたが今秋の残像が強すぎたのか手綱を任されたR.ムーア騎手がもう少しレースに踏み込んでいけなかった。つまり慎重になりすぎてしまった。ブリンカーを装着したり、最終追い切りをCWでおこなったり工夫はあったが馬自身も完調ではなかった。まだ4歳。この配合はもう一段階も二段階も高みを目指せるのは偉大な先輩が示してくれた。
4着ラブイズブーシェは母父メジロマックイーンの4歳馬。4コーナーまで中盤の喧騒に加わらず直線に賭けた武豊のファインプレーだった。5着に入った3歳のタマモベストプレイ共々来年の飛躍に期待したい。ルルーシュの作った1000m通過60秒8は馬場を考えればやや速めでその上に実質残り6ハロンからラップが上がっているから逃げ先行が軒並み止まったのは仕方がない。その厳しい展開を3コーナー先頭から6着に踏ん張ったカレンミロティックの評価は大幅に上方修正しておきたい。
-フェアウェルS-
前走準オープン勝ちが6頭という非常に目新しいメンツが揃った。既成勢力がナムラタイタン、オーブルチェフ、サイレントメロディのように峠を過ぎた馬ばかりでもあるし手柄を立てる絶好機だ。◎タイセイスティングは今秋東京ダ1600mを連勝しオープン入り。
三峰山特別ではレパードS6着のシグナルプロシードやユニコーンS3着のサウンドトゥルーら2キロ差ある3歳馬を簡単に捩じ伏せている。不良とはいえ「1分35秒4」翌日に重でおこなわれた秋嶺S「1分35秒2」と同等レベル。ゴールドアリュール×フォーティナイナーはスピードとスタミナ兼備のバランスがいい配合。4走前にクビ差の接戦だったジェベルムーサが人気の一角でこちらが人気薄というのは面白い構図だ。
不良の釧路湿原特別でワイルドフラッパー(今回出走)を3馬身半ちぎるなど道悪得意のロイヤルクレストを本線にひと叩きして上積みが見込める伏竜S勝ちの3歳コパノリッキー、ラブミーチャンの半弟で母父に中山ダートの穴血統アサティスをもつダブルスター。いずれも雑巾掛けが足りない馬たちだが来年以降への希望を込めて印をうった。