高松宮記念

春の雨でrainy dayという歌を思い出す。

「忘れたくない事なら 覚えようとしなくても 忘れる事なんてない そう静かに感じる」

「あれはある寒い日で強い雨の中 僕はただ君だけを待ち続けていた」

歌詞自体は競馬とほぼ関係ないが雨の日の出来事は自然と記憶に残りやすいもの。雨という装飾で平凡な日常にほんの些細な変化が訪れる。

昔から道悪の競馬は大好きだ。それも悪化すればするほど気分の高揚は抑えきれない。中京は朝の時点で不良の発表。予報だと昼過ぎまで雷を伴い激しく降るという。

史上に残る大波乱となったピンクカメオのＮＨＫマイルも歴史的巻き返しだったロジユニヴァースの日本ダービーもゴール地点の懸崖の菊が雨に濡れたヒシミラクルの菊花賞もテイエムオペラオーが屈したあの日の天皇賞(秋)も…。雨のＧ１は美しい。

良馬場でも狙う予定だったが道悪で不確定要素が増えたのは渡りに舟。雨煙る桶狭間決戦に◎マヤノリュウジンが降臨する。登録の段階では出走順が２４番目も レーティング２位で出走枠に滑り込んだ。そのレーティングこそ非凡な才能を示す関所突破の通行手形。評価されたのはロードカナロア、ハクサンムーンと互角だったスプリンターズＳ。

前半から先行争いの後ろにつける積極策でインをぴったり回って徐々に進出すると直線もしっかり伸びて「1分07秒3」の３着を確保。重賞での好走歴すらないＧ１初挑戦でスプリント界のトップホース２頭を相手に堂々とした戦いぶりがレーティング上位として反映された格好だ。

二強に次ぐ第三の馬と認められただけにここ２戦の結果は不本意だが京阪杯(９着)は速い上がりが要求される京都への適性が薄いし、阪急杯(８着)も調教こそ動いていたがレースでは久々の影響で馬がボケていた雰囲気の走りだった。この中間も順調に調教を重ね、型通り良化。

最終追い切りは単走だったが気合いを表に出して荒れ馬場を力強く登坂した。叩き２戦目は[2-1-1-0]で中３週のローテも[3-0-0-0]阪急杯を使って本番を迎えるのは満を持しての臨戦態勢。問題は泥田化している馬場への対応。道悪は過去に重馬場の1000万(1200m)を差し切った実績を持つだけ。

これを鵜呑みにはできないが血統的には舞台、馬場ともに適性抜群の可能性が高い。父のキングヘイローは14年前の高松宮記念を勝つなど上がりの掛かる展開を得意にしていた馬で道悪は稍重を４回[1-1-0-2]走っただけで判断材料に乏しいがおそらく上手かったはずである。

そもそもキングヘイローの父は道悪上手な系統として有名なダンシングブレーヴだから余計な心配だろう。湿った馬場でNorthern Dancer系が途端に躍動する例は枚挙に暇がない。ましてマヤノリュウジンの母父はワンダースピードやナムラコクオー、稍重のダービーで大穴をあけたボールドエンペラーを輩出したダート型のキンググローリアスだ。

過去２年のように大箱になった影響で前半がゆったり流れる後傾ラップだとぎりぎりだったかもしれないが馬場悪化で直線は間違いなく上がりを要する消耗戦。その時こそマヤノリュウジンが道悪の鬼神と化す。

対抗も思い切って○シルクフォーチュンを指名する。昨年の京王杯ＳＣ５着や上がり最速だったスプリンターズＳを考えると条件さえ満たせば芝ダは関係ない気がする。８歳でも末脚は衰えを感じさせない。ダート並みの上がりを要する馬場とダートで最速の上がりを叩き出せる馬。僅かなスイートスポットの扉が開きかけているのではないか。

あとは偉大な格言『雨の日のキングマンボ』で▲レディオブオペラ、母父にブライアンズタイムを構える左回り巧者△インプレスウィナー。新中京1200mで[4-0-0-12]とやたら極端なアドマイヤコジーン産駒のスノードラゴン、マジンプロスパーは怖い。好調のサンカルロ、スマートオリオンまで手を回しておきたい。

ストレイトガール、ハクサンムーン、コパノリチャードら人気上位は総崩れで阿鼻叫喚。

「僕たちを一瞬の光が照らした これからの行く道を祝うかのように」