ご挨拶の前に…東京大賞典日記書きます。

午後６時。空も空気もすっかり夜の様相へ変わった最終レース後、後ろを周回するフリオーソを背に戸崎圭太騎手は泣いていました。

「これまでで一番印象に残っているレースはどれですか？」

インタビュアーに尋ねられた彼は、「どれもが思い出で選べないですけど…」と開口一番悩みながら、「やはり川崎の…かしわ記念ですかね」と応えました。

悲願の地元G1制覇、かしわ記念優勝

ハナにいけなかったエスポワールシチーにピッタリとマークされながら、向こう上面では３番手あたりにつけ、3コーナーからはグイグイと進出し、先頭のラヴェリータに馬体をあわせる。そして最終コーナーを回った時、マークしていたエスポワールシチーは2馬身以上後方に。勝負は、決しました。

大健闘のラヴェリータの粘りに負けず、力強く追い越していったフリオーソ。

やっと、やっと、やっと叶った地元でのG1優勝でした。

ゴール板をすぎたあとの戸崎騎手、その喜びが静かに、力強くでていましたね。

屈腱炎を抱えながら数々の重賞で記録を残してきた彼、その姿はいつも強豪とともにありました。

ヴァーミリアンやカネヒキリの影を踏み、エスポワールシチーやスマートファルコンの台頭に何度悔しい思いをしたことでしょう。

本当に悔しかったよね。

きっとそれは、フリオーソとともに歩んできた戸崎騎手もまったく同じ気持ちに違いありません。

古傷を抱えながら復帰した今年のかしわ記念がまたも2着。そして今日この日。
いつも一生懸命がんばってくれる彼が「いよいよその日」を迎える。

最後の勇姿、素晴らしかった。

積極的にハナにたち、最後まで自分らしく、自分のレースをしたフリオーソ。それを導いてあげることが一番の使命だと語るような、戸崎騎手の騎乗。

人馬一体の走りに、私は、笑顔と、涙が同時に溢れました。

そして引退式。

しばらく言葉に詰まり、俯く戸崎騎手。

きっと言葉にならないたくさんの思い出や感謝の気持ちが彼の中に溢れていたのだと思います。
どこか受け止めたくないような、でもゆっくりさせてあげたいような、切ない想いが体中から溢れているようでした。

「最後にフリオーソに言葉をかけてあげてください」

「……本当に、本当にありがとう、と、お疲れ様、と、…それだけです」

うつむいていた彼はそう言って涙をぬぐい、相棒を愛おしそうに振り返っていました。



追記。
その後、報道関係者と観客へのフォトセッションの時間が設けられ、フリオーソにまたがった戸崎騎手の笑顔で終了となりました。
※ボンネビルレコードも感動でした。割愛してごめんなさい。