55件のひとこと日記があります。
2012/04/14 20:46
泥の似合う男
彼の名前を久々に意識したのは、一昨年の秋だったと記憶している
その日、私は自らが主催するささやかなPOGの参加者の指名馬が出走を予定していたレースを目当てに、ウインズを訪れていた
その指名馬の名は「プレイ」
マイネル、コスモ軍団の総帥である岡田繁幸氏にセレクトセールで1億5000万円で落札された素質馬である
卓越した相馬眼の持ち主である岡田氏をして「スーパーホース」と言わしめた当馬は、1歳時から坂路で古馬と併せて圧倒していたというのだから、並の素質馬ではないことは明らかだった
しかし、今日の日記の主役は彼ではない
プレイは初戦で2着と惜敗したものの、間隔を明けて万全の調整を期した当日の未勝利戦では目立った相手も見当たらず、不安は水の浮くような不良馬場くらいと思われた
プレイの軸は固いと見て、ヒモ穴探しに転じた私は「コスモロビン」という馬に目が止まった
馬柱からは血統、成績共に凡庸と感じられ、調教の時計を見ても調子が一変という気配も伺えなかった反面、逆に明らかに通用しないという内容でもなかったが、単勝オッズが200倍近い数字を示しているのを確認して、一瞬「おいしいぞコレは」とほくそ笑んだが、すぐに我に帰り、的中が現実的(?)な馬を精査することにした
結局、相手に何を選んだかは忘れたが、結果はコスモロビンの快勝である
プレイはまたしても2着に終わった
コスモロビンを買い目に入れなかったのにはオッズ以外にも理由があった
稀代の高馬であり素質馬であるプレイには、早く初勝利を挙げてもらってG?路線への軌道に乗らせたいという陣営の意向から、岡田軍団のその他大勢の内の一頭であると思われるコスモロビンは、そのサポート役に回るための出走なのではないかという、全く根拠の無い臆測を立ててしまったからである
穴馬の気配を認めつつも、そんな臆測によって高配当を逃したことから、コスモロビンには憎さ百倍
更にその悔しさの矛先は、コスモロビンの騎手にまで向けられた
「空気の読めない騎手は、一体どこのどいつだ!?」
その鞍上は、柴田大知だった
「まだ現役だったのか・・・」
率直な感想だった
1996年デビュー組の一人であり、同期には悲運の名手福永洋一の息子で将来を嘱望され、昨年リーディングにも輝いた福永祐一や、早くからG?7勝馬のテイエムオペラオーで表舞台に立ち、今も第一線で戦い続ける和田竜二、JRA初の女性騎手となる増沢(旧姓 牧原)由貴子と細江純子等と言った、個性豊かな華々しい面子が名を連ねる
その中に有りながら、柴田大知もまた弟の未崎と共にJRA初の双子デビューという肩書きは、その中にあっても異彩を放っていた
競馬に関わる素養としては直接的に関係が無さそうな面でデビューから注目されることとなったが、直後の数年間はまずまずの勝ち星を挙げ、重賞も勝つなどして上々の成績を記録し、このまま順調にスタージョッキーの階段を登っていくのだと思っていた
しかし、その後の大知は昨年くらいまでの数年間の低迷を余儀なくされる
私はたまたまその数年間に、彼が活躍していた頃に比べて、競馬とは距離を置いていたこともあり、急速に彼の名前を見かける機会が減り、またその低迷の要因について知りうることもなく、いつしか柴田大知というジョッキーは、私の記憶の中には埋没していったのだった
しかし時を経て、コスモロビンで大穴を開けられてからというもの、私は彼の名前を再び意識するようになった
その後も彼は何回も開け続けた
同じ岡田軍団のコスモやマイネルと言った冠名が配された馬達に跨がり、穴を開け続けた
穴を開ける日は、コスモロビンと同じく道悪であることが格段に今も多い
去年はマイネルネオスでG?に勝ち、古くからのファンに復活を強く印象付けた
だが、その復活の引き金はコスモロビンでプレイに勝利した、道悪の未勝利戦だったのではないかと思う
不振にあえぎ、騎乗機会を求めて障害にも挑戦し始めた頃までには、年間未勝利などの苦汁を味わい、辛酸も舐めたことだろう
泥もすすったことだろう
今日は断然人気のマジェスティバイオを駆り、中山グランドジャンプ2連覇を達成した
だが、その一方でマイネルの穴馬でも勝利をおさめていることも見逃せない
大手有力グループの信頼を勝ち取り、他の馬主からのG?有力馬も任されるようになった今は、先が見えないような暗闇にくすぶっていた頃の柴田大知ではない
明日には、コスモオオゾラで挑む更なる大一番、皐月賞が控えている
そんな彼の晴れやかな復活までの道程が凝縮されたような今日は、やはり雨が降りしきる不良馬場が舞台だった
メインレースを終えて引き上げてきた大知の顔は泥まみれだったが、もちろん誰よりも輝いて見えた
柴田大知以上に泥にまみれて輝ける騎手を、私は他に知らない