キズナの役目

中央競馬ではG1連戦真っ只中である。今週は東京優駿牝馬いわゆるオークスが府中の東京競馬場で行われる。
東京競馬場のある府中市は街中に大きなケヤキの樹がたくさん植樹されていて緑に溢れている。競馬場があるくらいだからそんなに大都市的ではないが、とても住み心地は良さそうな街である。
随分昔になるが、以前はこの沿線に住んでいて毎週のように競馬場に出かけていた。今はスタンドも改修され、パドックも整備されて随分様変わりしてしまったが、土曜日のそんなに混んでいない競馬場でパドックのふちに座り、競馬新聞を眺めながら焼きそばとフランクフルトをセットにして食べるのが楽しみだった。
その頃はまだ20世紀でサンデーサイレンスの導入がこんな状況を作る何て想像もしていなかった。それからディープインパクトが現れ一つの時代の転換期になった。騎手も馬も国際化の波にさらされることになった。時代はバブル崩壊から長い不況に入り込みその余波は確実に競馬界にも影響をもたらし、それまでの時代を作ってきた個人馬主も次に次に消えていった。
それでも変わらないものが一つだけあった。騎手では40歳になろうとしていた武豊が20年変わらず日本の頂点に君臨していた。今の若い人たちには分からないだろうが、彼は絶対的存在だった。
しかし、歴史上沈まなかった太陽はない。天皇支配も江戸幕府も、ローマ帝国も、日本経済もトヨタ自動車も例外ではなく、それでも武豊だけは勝ち続けるんじゃないかとさえ思っていたが、そのユタカにも沈む日がやってきた。
命ある者は何時か滅び、形ある物は何時か壊れる。この地球もあの太陽もそして僕ら人類もその運命の中にある。始まりがあれば終わりがあるものだ。
それでも、諦めなかったものには再び陽の光が射すことがある。トヨタは現在売上高世界一の企業であり以前よりも高い位置で輝いている。
キズナは2011年東日本を襲った大震災の競馬会の復興のシンボルのような馬である。また、武豊復活のシンボルのような馬でもあった。第80回と言う区切りのダービーを一番人気に応え、後にイギリスダービー馬も破って世代の頂点にたった。
ここまでが、競走馬キズナとしての役目だったのかも知れない。それ以上を僕らも彼らも皆も求めたけど、それ以上は求め過ぎだったのかも知れない。強い、弱いでなく役目を果たしたのだ。
勿論、凱旋門賞に再挑戦しないことは残念だし、力が抜けるようなニュースとして受け止めた。どうして？と言う気持ちにもおそわれた。しかし、本来はあの去年の天皇賞の敗戦で種牡馬入りするのがベストだったのかも知れない。それは結果論だが、結果が出てみて初めて何が正しかったか？分かることもあるんじゃないかなと思う。
キズナは新しい役目を与えられて再び東京で走る。それらを全部勝ったて埋められやしないものもあるだろう。しかし、多くの競馬ファンに武豊と言う伝説の騎手の物語と共に語り継がれるために敢えてあと２つ勲章をとって欲しいと思っている。
それは、キズナがとるのでなくまだ役目を終えていない武豊がキズナにとらせてあげなくてはいけないものだ。未だ復活（ダービー）のお礼をキズナに返していないのだから。