ぼくの中の後藤浩輝　〜逃げたわけではなくて〜

彼が命を絶った。それは余りに突然で余りに悲しい出来事だ。
僕は彼の何を知っているわけでもない。人となりも画面を通じて知るのみだし、知ってるエピソードがあるとしたら、この前友人が呼ばれた某馬主の飲み会に後藤騎手と岩田騎手が同席していたと言うことくらいしかない。馬券の相性もショウワモダン位しか良い思い出もないし、どちらかというと自分の応援している馬の邪魔をされた記憶の方が多かったりする。
しかし、そんな自分でも今回のことは胸が痛んだ。切なく苦しい気持ちになった。だって、彼は幾度の落馬と辛く長いリハビリを経てターフに戻ってきたばかりじゃないか？しかも自分には落馬前よりも競馬が上手くなったように見えていた。人気馬でも落ち着いて勝利に導いていた。家族も関係者もファンも全ての人々が「なぜ？」どんな理由があったって命を自ら絶つ必要はなかったんじゃないかと・・・。それでも、やはり先週の落馬に原因を求めてしまう。確かに今回は軽傷で翌日のレースにも騎乗し２つ勝ち星を上げてはいる。ただ、それだけにその落馬した馬が安楽死の処分になったのもあって彼に過失があった訳ではないのに、一部に後藤騎手の騎乗を批判するような声があったのも事実だ。しかし、それが原因ではないだろう。勿論衝動的なものだったかも知れない。ずっと悩んで苦しんでたのかも知れない。それは今となっては分からないけど、もしかしたら明日調整ルームに入って競馬に備えなくてはなった時に、急に馬に乗ることが、レースをすることが怖くなってしまったのではないだろうか？あれだけ落馬を繰り返し、しかもそれらが不可抗力で起きるわけだから恐怖心が芽生えても何んら不思議はない。それが二度三度四度となれば普通ならとっくに心が折れていてもおかしくないと思うのだ。しかし、それを到底彼は受け入れられなっかっただろうと思う。
もう怖いから競馬には乗れませんとは言い出せなかったんじゃないだろうか。或いは無理し過ぎて自分より周りの為に頑張りすぎて心がちょっと疲れてしまっていたのかも知れない。だけど、そうだったとしても彼は自分に負けて、現実から逃げたくて死を選んだんじゃないと思う。責任感の強い彼は自らの命を差し出すことでしか責任を果たせなかったんじゃないだろうか？
いくら悔やんでも彼は帰ってはこない。あの日、勝利騎手インタビューに応えて時の表情が印象的で脳裏に焼き付いている。珍しくあまりうれしそうに見えなかったから。
もう自分たちに出来ることは彼の冥福を祈るしかない。それでも、小島調教師が自殺した時もそうだったがJRAはHPにったった一文を載せるだけ。日の丸組織って本当に冷たいなって感傷的になってしまう。彼はファンの多いジョッキーだった。そんなJRAに代わって僕らが手厚く彼を葬ってあげ、見送ってあげたいと思う。彼の一番の思い出のレースは何だろう？そんな事を考えるにはまだあまりに突然すぎて心の整理がつかない。いつかゆっくり思い出にふけりたいと思う。
ただ今は彼の家族がこの悲しみを乗り越えていけることとその様を安らかな気持ちで後藤浩輝騎手が見守れるよう冥福を祈るしかありません。もう二度と同じような悲劇が起こらないように。