重ニモマケズ ~ある逃げ馬の詩(うた)~

重にも負けず
稍重にも負けず
雪にも夏の小倉の暑さにも負けぬ

丈夫な馬体をもち
「年度代表馬になる」などという欲はなく
決して掛からず
いつも1000m58秒台で走っている

1日に飼葉四升と
人参と1/4カットのバナナを食べ
あらゆることを
自分を馬券圏内に入れずに
ちゃんと場の空気を読み
そして忘れず

トレセンの名門厩舎の隣の
古くて小さな厩舎の馬房にいて
東にコズんだ若駒あれば
行って引き運動につきあってやり
西に回避した馬あれば
行って繰り上がり出走し
南に悩める予想家あれば
行って「予想をやめれば楽になる」と言い
北に本命に推す人あれば
「逃げ潰れるからやめろ」と言い

除外された時は涙を流し
極悪馬場はピチピチチャプチャプ♪
みんなに「テレビ馬」と呼ばれ
本命にもされず
邪魔にもされず
そういう馬に
私はなりたい