全力の裏方　　?

その青年が転勤することになりました。
人事評価が恐ろしく低いのが原因だと思われました。
何処へ変わっても彼は「すいません」を言いつづけて、頭を垂れ続けて、
怒られ終わったのを悟ると、言われたことを綺麗に忘れて、同じことをくりかえすのだろう。
仕事を任せられることも無く、仕事をやり終えた充実感も無く、
俺には何にもできないし、やれば失敗するだけだし、俺なんかに任せるのがバカなんだ、って思いながら…

食堂で小さな声で青年にむかって懲りずに同僚が「おまえ、転勤先でもこんな失敗をくりかえすつもりか、頼むから、これだけはできるようになってくれよ、なにがわかんねえんだよ、教えてやるからノートをとれよ」そう指導していました。
ノートも出さず「すいません」「すいません」をくりかえしている青年に苛立ったように同僚が席を立ちました。
取り残された青年は何事も無かったかのようにご飯を食べ続けました。
食べ終わった頃を見計らって、私は近づきました。
「また怒られるのか」と思った青年が、私が何かを言い出す前に「すいません」と言いました。

世界一、意味のない、謝罪だと思いました。

「また、失敗したの？」
「すいません」
「失敗して、怒られて、ずっとずっと」
「すいません」
「あなたは」
私は言葉に心を込めました。
「あなたは、もっと自分を大切にしてあげなさい。
失敗して怒られて、自分に酷いことばかり、あんたはしてる。
自分は人からないがしろにされても良い存在だって、思っているんでしょう。
あなたは自分に酷い。
もっと自分を大切にしてあげなさい。
あなたが大切にしないものを他人だって大切にしないよ」

心をこめた言葉が通じない時があること、
私は多分、そう遠くないいつか知ることになるだろう。

それでも、私は、いつか、
そう遠くないいつかを越えたいつか、未来に、
彼がわかってくれる、そんな希望を諦めきれない。

思ったように走ってくれないサラブレットをなだめながら、
鼻を切ろうとして出負けしたり、
上手くゲートに入ってくれなかったり、
無駄に入れ込んでしまって、
無駄な力を無駄な方向に爆発させて肝心なところでガス欠になったり、
馬ごみにやる気をなくしたり、
あやつっているつもりが、馬の方が上手だったり、

騎手って大変だ、と思う。

心をこめても、勝たせてやろうと全力で頑張っても、勝つのは馬だ。
花形のように見えて、全力の裏方。
相手を信じて、相手に命を預けて、相手に栄光を掴ませるために全力で押しだす。

私も、いつか、騎手のように、全力の裏方になりたい。

今日、ダイワマッジョーレは負けたけれど、
それはきっと誰かに彼がおせっかいをしたくなかったからだと思う。
だって、私にとって彼は「おせっかいなおじさん」だから(笑)

次こそ勝つぞ、ダイワマッジョーレ！！