92件のひとこと日記があります。
2015/09/20 21:17
誰も知らない、わたしだけの旅
痛みを求めて生きているわけではないけれど、
叶わないことに絶望したくて夢を見るわけではないけれど、
自分の限界に頭を打ちつけて、
自分の枠の狭さにもがき苦しみたくて、
自分でいたいわけでもないけれど、
それでも私は私に許されたほんの少しの空間を世界に分けてもらいながら、
曲がりくねりながら、一歩一歩生きている。
子供の頃、家出をしようとしたことがある。
理由は、忘れて仕舞えるほどつまらないことだった。
けれど、私は、その日、父母や弟を捨てて、何処か遠くに行こうとしていた。
持って出たのは通学カバン、
お年玉の入った巾着、
大切にしていたコンパクト、
そしてノートと、2Bの鉛筆だった。
真昼間の商店街を行くあてもなく歩いていた。
立ち止まると、「そこで何してるの」とお店の人に訊かれた。
立ち止まれなくて、何時間も歩いた。
昼御飯を食べていなかったので、食べ物屋の前で必ずお腹が鳴った。
みないように目を逸らして、ただ歩いた。
自分はひとりで生きていくのだ、と決意していた。
その方法は分からなかったけれど、
ただ、許せなかった。
今ではもう、理由さえ忘れてしまったその出来事を。
歩き続けたら、びっくりするくらい遠くまでいけた。
帰る必要が無いのだから、それでいいと思った。
その日、家出をしていた。
わたしは。
咽喉が渇いて公園の水飲み場の水を飲もうとしたら、犬の散歩の女性に、
「そんな水を飲んだらお腹を壊すわよ」と注意された。
公園の土管の中で、横になって眠る、
そんなことができるか自分を試そうとした。
土管の中は小便くさくて、丸虫が頬に落ちてきた。
何処へ行こう。
家出って、どうやってするんだろう。
何処へ行こう。
何ができるだろう。
豆腐屋のおじさんが「子供は買える時間だよ」とわたしに手を振った。
あんなに強く決意したのに、
あんなに許せないと思ったのに、
わたしは家へと歩いた。
初めは俯いて、時々引き返しながら、
でもだんだん日が暮れて早足で、
最後は泣きながら街灯の下を全速力で走って、
わたしは家に帰った。
父と母は、何も言わなかった。
多分、気がつかなったと思う。
だけどわたしは今も覚えている。
冴えわたる三日月、
走っても走っても心配そうに後ろを付いてきたあの月の銀色、
段ボールを敷いて此処に住もうと思った、丸い土管から見えた丸い青空、
公衆トイレの「誰か気づいて」の文字、
ジュースを買った短い時間だけ立ち止まることを許された街角、
それは、
たった数時間の、
私だけがそうだと知っている、
ひとりぼっちの旅。
ドリームジャーニーを思う時、わたしはいつも思い出す。
あの小さく、虚勢を張った意地の強い馬に、
小さかったわたしの、
私しか知らない、でも決してただの日帰り旅行ではない、
決意を持った、
あの、
小さな家出を。
-
するめさん
あの頃、
2Bの鉛筆で書きたかったものを私は忘れてしまいましたが、
何かを書こうとしていたということだけは、覚えています。
のど輪だ田上!さんに、文章の、その個所をを拾ってもらえて、
私は自分が何かを書こうとしていたことを思い出しました。
どんな時でも、
何かを書き残すことは私にとって大切なことのひとつだったんだな、と。
「おかえり」
その言葉、幸せです。
ありがとうございます。 -
のど輪だ田上!さん
2Bの鉛筆で何を書こうとしたんだろうね。
またするめさんの日記が読めて嬉しい。
おかえり♪ -
するめさん
馬のきもちさん、こんばんは。
ドリームジャーニー、オルフェーブル、兄弟の妹が亡くなってしまいましたね。
癖の強いお兄ちゃんの血を引く初めての女の子が、
どんなレディに成長するのか楽しみだったのですけれど、
とても残念です。
家出から帰らない小さな女の子のように、彼女を覚えてしまいました。
昇って行った先で彼女が安らかでありますように、祈ります。 -
するめさん
おうまの親子は♪さん、ありがとうございます。
今日は、二度も訪問下さったのですね。あなたに会えて、うれしいです。
おうまの親子は♪さんのコメントを読んで、埼玉・彼岸花で検索すると、
巾着田の写真を見ることができました。
木々の間に真っ赤な彼岸花の群生。
ここへ行かれたのかなぁ〜とか想像しながら写真を見ました。
彼岸花に例えられるのも悪くないなと思えてきました。
おうまの親子は♪さんが、彼岸花を好きだと言って下さったからです。
私にはあなたが良い匂いのする黄色のフリージアに見えます。
フリージア、好きになってくださいね。 -
おうまの親子は♪さん
するめさんの言葉が心に静かに深く染み渡ります。
私、彼岸花の花が大好きで、埼玉に彼岸花の群生で観光名所があるのですが昨日はそこに出かけて花を愛でて来ました。
一般的に地味に思われる花ですが、よく見ると夏空を飾る花火のようであり、内に秘めた情熱を感じるのです。 -
馬のきもちさんがいいね!と言っています。
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おうまの親子は♪さんがいいね!と言っています。