92件のひとこと日記があります。
2014/04/06 20:38
まだあげ初めし前髪の
中学の時に、通学路の途中に駅があって、
そこの駅を利用している別の中学の男の子と毎日擦れ違っていた。
別に、何か理由があって気になったとかではなくて、
友達に言わせれば、
「どこがそんなにあなたの琴線に触れたのかわからない」と評されるしまつで、
自分でもよくわからなかったけれど、
でも、気になっていた。
名前も知らなかった。
ひとりで通学しているみたいだったから、声を聞いたこともない。
声を聞いてみたかったけれど、
引き留めてみたかったけれど、
彼は無言で、私の横を通り過ぎて行くだけで、
ただ、それだけの毎日だった。
何処を好きになった、とか、無い。
あるなら、多分、擦れ違ったこと。
それだけだ。
分け合う思い出もない。
色あせる思い出もない。
思い出ひとつもくれないままで、ただ擦れ違うだけの毎日だった。
思い出せるような、言葉も、優しさも、笑顔も何もなく、
「どこが好きなの?」
「わからない」
けれども、あれは恋だった。
擦れ違う一瞬、
目の横をすぎるその肩が起こす小さな風が、私の前髪を揺らしたのを、
私の前髪が揺れて、
隠していた額があらわになるのを、
恥ずかしくて、
恥ずかしくて指で隠して、
俯いたまま、
見送った背を、
思い出して泣きたくなるような、あの感傷を、
汚さずに持てて良かった。
告白なんかしないで良かった。
声なんか掛けて汚さずに良かった。
叶わなくて良かった。
擦れ違っただけの、
1年間、
毎日、整えた前髪、
目も合わせずにまっすぐ歩いて、
擦れ違うだけを祈りに、
目の横を過ぎ去る肩の、
あの肩の起こした風に乱されるのを望んで、
恋をしていた。
一生、叶わなかった,
でも、恋をしていた。
4月、
まだ初恋を知らない乙女が、春風に前髪を揺らす。
戦う彼女らの、
あげ染められぬままの、その前髪を見るたび、
あの日、私の前髪を揺らした春の風を思い出す。
桜花賞、
まだ恋を知らない乙女たちの戦い。
-
するめさん
きんぐかずさん、はい、そうです。
島崎藤村の初恋です。
今日はオークスでした。
乙女にとって恋は大変な意味を持ちますが、
彼女らは恋の前に、
まず勝たねばなりません。
その戦いの過酷さと純粋さに、
いつも心を打たれています。
いつか、美しい花嫁となるために。
彼女らの闘いは続きます。 -
きんぐかずさん
藤村ですか?
するめさんの日記は文学そのもので素晴らしいですね! -
きんぐかずさんがいいね!と言っています。
-
するめさん
おうまの親子さん、
美しい梅の花でした。来年からは幻になってしまうのが惜しいくらいです。
あなたの下さった「いいね!」のボタンには、そうゆう想いがあったのですね。
何か書きこもうと努力してくださってありがとうございます。
想いの詰まった「いいね!」両手で受け取りました。 -
おうまの親子さん
するめさん、お久しぶりです(*^^*)
梅の花、見てくださってありがとうございます。
私も他の方と同じように何か書き込もうとしたけど、うまく言葉にできず、いいね!だけになってしまいました(^^)ゞ -
するめさん
エアウメッシュさん、
色褪せない思い出っていうのは、
それ以上、色がつかないってことなのかもしれませんね。
彼は私の横を通り過ぎただけで、
それだけだったので、
それ以上の色がつきようがなかったのです。
だからそのまま、
見たままの姿で、
それ以上褪せることなく、そのまま、
綺麗なまま、
思い出になりました。
彼を思い出すとき、私は自分の褪せてゆく心の中にも、
変わらない美しい色があると気づくのです。
それはとても、幸せなこと。
私も、
桃色ならいいと思います。
願わくば、その色が。
美しい言葉をありがとうございます。 -
するめさん
chibiさん、
自転車に乗った少年は良い思い出になりましたか?
私は今でも、その駅を通るたび、振り向いて見るくせがついています。
桜花賞、
桜の散り際の美しい姿が見れそうです。 -
するめさん
のど輪だ田上さん、
この題は、
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
という詩から引用しています。
少女が花嫁になるとき、
それまでおろしていた前髪を結いあげるのです。
おでこを出すというのは、、
好きな男の人のもとへゆくための、
少女の儀式のようなものでした。
初めて前髪を上げた少女のおでこの恥じらいと白さを、
眩しいと、目を細めながら見ている少年の詩です。
のど輪ださんも奥さまの額にかかる髪を結いあげた少年の一人です。
素敵☆
きっと今週末にのど輪さんが見るハーブスターの額も、
光を浴びて美しいと思います。
がんばってほしいですよね! -
するめさん
まいさん、
この文章は2月の中旬に書き終わっていましたが、
桜花賞のために取っておこうと思って、温めていました。
冬の間、ずっと春を待って眠っていた文章です。
まいさんの胸で綺麗に咲いてくれればいいなぁ(笑) -
するめさん
おうまの親子さん、
綺麗な梅の花を見せてくださってありがとうございます。
薄桃色の小さな花弁が重なって重なって、あの風景ができているんですね。
わたしも彼らのひとひらみたいに、
重なって重なって、
これからの十年を美しく生きて行きたいと願います。
失われる風景を、
失わないように胸に映して。