92件のひとこと日記があります。
2014/05/25 20:55
18歳、一生に一度の、発車のベル
もうすぐ終電が来るようだった。
何回目か数えるのも馬鹿らしくなるくらい、
何度も「じゃあ、これで」をくりかえして、電車を見送っていた。
手を離せば、滑り込んできた電車に、彼は乗れるはずだった。
最後の言葉が「さようなら」の一言になるのが怖かった。
その言葉だけ、覚えてしまいそうだった。
だから、「じゃあ」とか「これで」とか「次のに乗るよ」とか、
そうゆう決定的ではないぼやけた言葉ばかり繰り返して手を握っていた。
東京はそんなに良いところかな?
あたしにはわからないよ。
でも、あなたがゆく場所だから、きっとキラキラしているんだろう。
この空が、ずっとそこまで続いて、とぎれないのが不思議だった。
手を伸ばしても届かない場所なのに、空が続いているなんて、不思議。
遠のいて遠のいて、見えなくなるほど小さくなるまで遠のいて、
あなたは東京で、あたしの住む街の地図を見る。
きっとあなたの住む街の駅の料金表に、
あたしの街まで行くための料金は載っていないでしょう。
「なんで、別れなきゃならないの?」と訊いた彼に、
「忘れられて薄れて行く自分が怖い」と答えた。
あなたに忘れられることに耐えられない。
いつでも思い続けてくれと願っているわけじゃなくて、
忘れられて、
「思い出される」ようになりたくないの。
終電がつく2分前に手を離して、
やっぱり「さようなら」じゃなくて、「元気で」と言った。
別れを告げないように、別れた。
一度離れた指をあなたがもう一度ひっかけようとして、空ぶった。
届かなかった指を見送って、背を向けた。
階段までホームを歩く間、絶対に振り向かないと決めた。
涙は出なかった。
ホームに滑り込んできた電車は最終電車だった。
振り向かないと決めていたのに、
電車が走りだした瞬間、振り向いてしまった。
ホームには誰もいなかった。
あたしの横を電車が走った。
一瞬見えた電車のドアに彼の姿が映った。
手もふらず、あたしを見ていた。
強くもないのに、いつも守ってくれた。
わざと教科書を忘れて、机をひっつけて数学の授業を受けた。
自転車の後ろにのせてくれたけど、腰に手が回せなくてグラグラしてた。
ケンカしたことも、
やきもちを焼いたことも、
守れない約束もたくさんあった。
初めて手を握ったのが最後の日だった。
「俺は東京へ行っても続けていけると思っているよ」と言った。
その言葉だけを宝物にしようと思った。
「宝物じゃなくて、約束として受け取れよ」と言った。
約束にしたくなかった。
それは破れてしまうから。
彼がどんなに純粋でも、
あたしがどんなに純粋でも、
これから先の未来に敵うわけがないと思った。
場外馬券売り場の投票権締切を知らせるベルをきくと、
あの日聞いた発車のベルを思い出す。
彼はわたしが場外馬券売り場に通うようになっているなんて思っていないだろうな(笑)
でもあの音をきくたび、これから切なく、ただひとりの戦いが始まるのだとそう思った。
あの日、あたしがひとりで歩きだしたこと、
あの一歩と同じ一歩目の戦いに踏み出す馬たちの、
スタートゲートでの姿を、
結べなかった約束みたいに見つめてしまう。
一生に一度しか手に入れられなかったものがあったとしたなら、
あのベルへの感傷。
それは繰り返すけれど、最初の感傷はただ一度。
ただ一度の感傷。
ダービーのベルが鳴る。
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するめさん
蓮馬毛さん、こんばんは。
今日はダービーでした。
レース中はいろいろな出来事があって、目が回るような心地がしました。
怪我をしたお馬さんたちや、
出走の叶わなかった金髪の彼や、
レースを頑張ったお馬さんたちや、
東京優駿をめざして頑張ったお馬さんたち全部に、
感謝を。
ダービーを見るたび、
次のダービーが見たくなります。
こうやって続いて行くのでしょうね、
これからも。 -
蓮馬毛さん
こんばんは。
意外とその彼も今も同じベルを聞いているかもしれませんよ、毎週末に。
青春も人生もダービーも1度きり。
楽しみましょう。 -
蓮馬毛さんがいいね!と言っています。
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するめさん
エアウメッシュさん、
オークスのエアグルーブ特集を読んで泣いたするめです、こんばんは。
大人になるってことは、
いろいろなことを忘れて行くってことかもしれないけれど、
強い、強いことだと思います。
彼女が最後まで強かったのは、大人の女性だったからかもしれません。
キラキラした思い出を忘れてしまったとしても、
きっとそうゆう時期が、
あったんですよ、
わたしたち、
だって、乙女だったんですもの(笑) -
するめさん
きんぐかずさん、こんばんは。
ダービーは胸に来るものがありますよね。
彼らをよくぞここまでたどり着いたって、褒めてあげたいです。
たくさんの人が助けてくれるけれど、
それでも走る馬たちは、ただ一人の闘いを強いられるのだと思います。
たくさんのヘルプがあっての闘いだけれど、でも。
金髪の彼はきっと3着までには入れると思います。
今年のダービーの私の夢は、彼です(笑) -
エアウメシュさんがいいね!と言っています。
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エアウメシュさん
汚れた大人のウメシュにはこんなキラキラな思い出がない・・・
何か一つくらいあったはずだけどね(笑)
あの場所に立つ馬たちも何かを感じるんだろうね〜きっと・・・(*^^*) -
きんぐかずさん
くぅぅ…
全ての馬たちにとって一度きりだから・・・
その場に立てる全ての馬に、立てなかった馬達にも精一杯のエールを
(ちょっとだけ金髪の彼に大きめのエールを) -
きんぐかずさんがいいね!と言っています。