オルフェーブルへ

よお！
この間、みんなの想いがキズナになって奇跡が起こる瞬間を見てきたよ。
ガラにもなく感動して軽く潤んじまったんだぜ。
去年おまえが見せたジャパンカップの感動を上回る勢いだったぞ。ﾌｯ

でもその日には全く関係ないのにさ、何より先に気づいたんだ。
なんで僕はあの時ジェンティルを応援する気でここに来たのに、彼女と体を
ぶつけ合って走ってるおまえの名前を、今思い出しても恥ずかしいほどバカ
みたいに叫んでしまったのか。
僕はこうみえても、とても冷静で感情に流されず客観視できて分析するのが
うまいって周知な野郎なんだぜ？

きっと僕はまいってたんだな。　
2011年のあの日、あの時から、次々に無くなる風景を、次々に崩れて行く
人たちを見つめ、その光景に悲しいとか悔しいとか行き場のない気持ちを
堪えてさ、でもかけがえのない家族が崩れて行く姿を見たとき「無力さ」
と一緒に張り詰めてた糸が切れそうになったんだ。

僕は勝ち馬を決める競馬ってのは興味がなかった。
でも父は競馬がずっと好きだったよ。
読書と同じようにいつも競馬新聞を見て、買いもしない馬券予想してた。
年に２回だけ行く東京競馬場には僕も連れて、父の肩車から見る走る馬の
美しさと背中から押し飛ばされるような歓声と興奮の波動が流れて来て、
僕はその瞬間が大好きだった。

そんな頃を思い出しながらふと動画サイトで観たレースに、20馬身差の中を
猛スピードで追いかけてくる馬をみたんだ。
僕だったら諦める。　今の僕のように。　諦める。あの時そう思った。
あの時の僕がもしあそこの競走馬だったら、もう勝てねーよって諦めてた。
なのに諦めないあの馬は爆走して２着に首差まで追い上げちまった。

以来僕はブエナ・ビスタのこれまでを全部知りたくなった。
走って走って諦めずに走って来た彼女は最後の年に、堂々と勝利した。
岩田騎手が僕の代わりにみんなの代わりにブエナを心から讃えてくれた。
そしてたくさんの名誉ある記録と、それ以上に素晴らしい記憶ってやつを
残してくれた。
そして僕に、諦めない勇気っていう無限の力と、見えなくなってた希望を
くれたんだ。

ラストランの日のブエナ。
勝負の世界はそんなに甘いもんじゃねぇって笑われそうだけど、真ん中を走る
ブエナの先に、次の世代で新しい物語を創る馬たちがそこにいてさ。
ブエナは走りながら「最高峰の座は私のものよ。あんたらには譲らないわ」
ではなく「さあ行きなさい、本当の強さを持った新時代を創る子」と言って
るように思えた。　
その想いを、ブエナから受け渡されるとかじゃなくて、自分の意思で勇敢に
「受け取ってやるよ」と圧勝したのがおまえだった。

どっか土臭くて誰よりも華麗な姿ってわけじゃないけど、負けん気と力強さが
全身から溢れてて、ブエナの創った絶景を引き継げるのはおまえなんだなぁ
と何の抵抗もなく思えたんだよ。
でも僕は牝馬にブエナの後継を受けてもらいたいなんて言って、みんなの前で
ジェンティルを応援した。
本当にそう思ってると思ってた･･･つもりだった。
が、2012年のジャパンカップでジェンティル１着の馬券を握りしめながら、おまえの
名前を叫びまくってしまうという本音が出ちまった。
一緒に行った友達も「え・・」ってこっちを見てた。

容赦なくブエナを押さえつけて圧勝したオルフェーブル。
ブエナの次の世代を引き継いだ、名誉あるプライドロックに立つ馬。
強くて勝ち気で負けず嫌いで、だけどクールで優しい目をして。
僕にとってオルフェーブルはブエナのように、馬という馬ではなくて
馬という人間くさい何か。

他の人には「どんだけ感傷的妄想なんだよこいつ」だぜこの日記（笑）


しかし、そんなおまえが肺出血。
宝塚記念は断念。凱旋門も危うい状態かぁ。
きつい時代に生まれたきつい時代を走る馬だもんな。
僕らも似たようなもんだから「ふさけんじゃねーよ　なんでだよ！」ってな
具合におまえなりに感じてたりしてるかい？

でも大丈夫だよ。
強気で負けず嫌いで諦めないオルフェーブルだろ。
みんなのおまえへの想いが、もっとでかいキズナになって奇跡起こすと
信じてるぜ。
体調不良なんてさっさとやっつけて絶対に戻って来い。
そしてこれまでの優駿が残した歴史を塗り替える勢いで走って、上質な
絹と金箔（か？）で織られた名誉の証を着ながら、堂々とその力強く輝く瞳で
立つ勇姿を見せてくれ。

無茶言ってるかい？
でもおまえ引退なんて考えられねぇって思ってる気がしてさ。
父親になってどっさりＤＮＡ残しておまえの証に会えるのもいい。
どっちだっていいんだ。　おまえにとっての１番の答えがでるなら。


つまり結局おまえがすごく気に入ってるってこった！