389件のひとこと日記があります。
2013/11/04 22:45
晩秋の星
「楽天ファンなの?」
「というより、星野ファンです」
こんなやり取りを、何人としただろう。
星野仙一を応援し続けて、十余年になる。
“闘将”、“燃える男”などと呼ばれる由来は、その激しい振る舞いからだ。
いまではだいぶ鳴りを潜めたが、中日監督時代は特に荒々しく、
ベンチを蹴っ飛ばす、電話を叩きつける、審判への講義はもちろん、相手監督の胸ぐらは掴む、選手への鉄拳制裁。
とにかく枚挙にいとまがない。
死球を受けた自軍の選手が相手投手に食ってかかる。
星野監督が選手たちに顎で「行け!」と合図する。
そして、選手全員がベンチから飛び出していく。
俺がかつて巨人ファンだった少年時代、星野監督率いる中日への印象は、武闘派集団だった。
あとで知ったことだが、選手たちは相手投手に対する怒りではなく、星野監督への恐怖から飛び出していたという。
断っておくが、星野監督はただ乱暴というわけではない。
ファンの気持ちや自分の目標にひたすら純粋で、試練を乗り越えた選手には機会を与え、多くの名選手を育てた。
そして中日で二度、阪神で一度、リーグ優勝を果たしてもいる。
とにかく、まっすぐで熱い男なのだ。
プロ入り前は巨人とドラフト指名の約束がありながらも反故にされ、中日に入団してからは巨人キラーとして活躍、
現在に至るまで打倒巨人を貫くその姿勢や、
何度もリーグ優勝を経験しながら日本シリーズでは勝てない、どこか無冠の帝王めいたところに、俺はいつしか惹かれていた。
2013年、星野監督率いる楽天イーグルスが球団創設9年めにして初のリーグ優勝、
日本シリーズにおいて最終戦までもつれこんだ末セ・リーグ覇者の巨人を破り、初の日本一となった。
そして、星野監督自身も初の日本一となった。
約半世紀に渡り巨人と闘い続けてきた男が、巨人を倒して悲願の日本一を達成したのだ。
俺は泣いた。声をあげて泣いた。
とにかく嬉しかった。
しかし同時に、どこか寂しさを覚えてもいた。
もう星野は日本一を達成した。夢を果たした。
闘将・星野の物語が、いま完結した。
そう思うと寂しかった。寂しくて、また泣いた。
ひとしきり泣いて、俺は気持ちを整理した。
新たな夢に向かって、星野仙一は進み続ける。
星野仙一の物語は、まだまだ続くのだ。
それを見届けなければ。
そして、俺自身も星野仙一のように熱くなろう、俺も次のステージへ進もう。
涙を拭い、俺は部屋の窓を開けた。
楽天の本拠地・仙台の方角へ目をやる。北斗七星が見えた。
晩秋の夜空に輝く7つの星に、俺は7戦にわたる激闘と、背番号77を背負う闘将の勇姿を重ねた。
「どこの球団のひいきというわけじゃないんですが、星野仙一が好きなんですよ」
俺はきっとこれからも、誰かとこんなやり取りをするだろう。
おめでとう、楽天イーグルス。
おめでとう、闘将・星野仙一。
夢と感動を、ありがとう。