ヒーローが、止まって見えた…

９回表２死無走者。

ロッテの勝利は目前であった。

３対２で、ロッテ１点リード。マウンドには守護神･益田が上がる。

土壇場に追い詰められた楽天イーグルス。
敗色濃厚のここから粘った。
負けるわけにはいかなかった。

嶋と鉄平が連打、松井稼頭央が四球で繋いだ。

闘志に動かされた｢勝利の女神｣が、奇跡を起こそうとしていた。

ニ死満塁。前日の日ハム戦でも勝ち越し打を放っていた藤田一也が決めに来た。

フィールドに、緊迫感がみなぎった。
１万人が固唾（かたず）を飲んだ。

益田が投じた３球目に、藤田のバットが一閃する。

｢カーン！！｣

渇いた木製バットが、その芯を捉えた音がした！

伸びる！伸びる！

場内に、悲鳴と歓声が怒涛の様に入り乱れた。

打球は岡田中堅手の頭を、遥かに越えた。
満塁の走者が次々とホームを踏んだ。
次の瞬間、藤田一也が２塁塁上で満面の笑みを浮かべ、大きく右手を突き上げた！
｢BURRN!｣
ヒーローが、長く止まって見えた！

歓喜のベンチで、闘将の顔も綻びて見えた。
７回裏に、死球を巡って両軍が乱闘寸前の騒動に発展していた｡
｢スイングしとるやろ！！｣
仕掛けた指揮官の闘志が、ついにチームに浸透しはじめた。
｢最後まで諦めない。｣このチームに底力が芽生え始めている。
Ｍ３−５Ｅ

そしてついに、首位ロッテが止まった。