不屈の男

｢来た！｣

配球は完全に読まれていた。
代打･山崎武司は内角へのシュートを捌いて、強引に引っ張る。
遠心力で弾かれた打球は左翼線にパーンと落ちた。
中日を逆転サヨナラ勝ちに導いたタイムリーヒット！
｢格別ですね。一生忘れる事はないと思う。｣
殊勲打を放って、山崎の顔は野球少年のような笑顔になった。


東北楽天には、球団参入時から７年間在籍した。
そこで出会った野村監督の下で、初めて配球を学んだ。
かつて味方の立場から青山の性格や球筋、嶋の性格や配球などを見てきたベテランは、楽天バッテリーの全てを熟知していた。

東日本大震災の起きた2011年が楽天在籍の最後の年となった。
｢仙台は第２のふるさと｣
そう公言する山崎武司は、楽天を退団してからも幾度となくどん底から這い上がって来た。
その姿は、大震災に遭いながら不屈の精神で生きて来た東北の被災者に被って映る。


｢最後に、Ｋスタで逆転ホームラン打って勝ちたいな。そして、東北の人に（よくやった山崎）って誉められたら、引退してもいいかな…？｣

大きな野球少年が、笑った。