俺が、決めてやる！

｢ファールボールにご注意下さい！｣

嶋は粘っていた。

カウント３−２になってから、３球続けてファール。
延長１１回。一死満塁。１対１。
ヒットはもちろん、エラー、フォアボール、デッドボールでも試合が決まる土壇場である。

スタジアムは｢嶋！、嶋！｣の大コール。
ベンチも一体となって嶋を鼓舞した。
田中将大が、必死に嶋に声を飛ばす。

その田中は、９回に掴まった。
完封勝ちまであと３人から、まさかの同点とされた。
その裏、二死１･２塁の好機で嶋は三振を喫し、エースに勝ちをつけられなかった。
それだけに、この延長１１回裏の一死満塁で迎えた打席は必死であった。
｢俺が、決めてやる！｣

嶋の狙いは“変化球”であったが、ファールで粘るうちに配球を次々と読み替えた。
｢押し出しを避け、最後はストレート｣

中日の武藤投手が、運命の９球目を投げた。
手元を離れ、投じられた球は、ストレートだ！
嶋の読みが、的中した。
得意の右打ちが、９球目の最後の一球を完璧に捉えた！
｢カーン！！｣
会心の打球音がスタジアムにこだました。

｢ワー！！｣1万4千の観衆が勝利を確信し、一斉に歓声を上げた。
ドドドド…スタジアムが、揺れた！
あとは、歓喜の絶叫となった。

嶋の放った強烈な当たりは、二塁ベース右をライナーとなって、センター前へと抜けて行った。