隠れた二人の肖像

クライマックスの場面は突然やって来た！

松井稼頭央が、阪神のエース能見の初球を、レフトスタンドへアーチを架けた！

能見のチェンジアップを、松井は初球から狙っていた。
打った瞬間、それと分かった。

楽天先発・永井が、見方が先制してくれた後に、すぐ追いつかれた。
３回裏に生まれた、松井稼頭央の初球ホームランは、永井の背中を押す勝ち越し弾となった。

しかし、蒸し暑いマウンドで、永井は４回になっても苦投していた。
一死後に、本日４個目の四球を与えた。

松井稼頭央が、マウンドに近づいて行った。
｢ランナー気にするな。いいか、頑張れ！｣と、そう言った様に見えた。

永井が、２度３度と頷いた。
それから、永井のボールが変わった様に感じた。

楽天は２対１で、阪神に勝利した。

ヒーローは、永井怜。

お立ち台に向かう永井の向こう側で、８回を自らの暴投と、松井稼頭央の一発だけで抑えた阪神・能見が、グラウンドに一礼をして消えた。

また一方では、ただ一球で仕留めた松井が、ベンチ裏に見えなくなった。

お立ち台に立った永井から、嬉しそうに白い歯がこぼれていた。

温かい拍手と歓声が、永井怜を包んでいた。