田中が綴ったストーリー

田中将大が、笑っていた。

終盤８回表、ニ死から西岡に２塁打を打たれた後に、２者連続で四球を出した。
その直後、踵（きびす）を返してマウンドに戻る田中の顔に、思わず笑顔がこぼれていたのだ。

エースのその笑顔は、自分が置かれた最高のピンチを、最高に楽しんでいるかの様に見えた。

マウンドに戻り、対峙するマートンを見た瞬間から、笑顔は消えた。

ニ死満塁で迎える阪神の主砲マートンは、“四球の後の初球”を狙っていたが、そのセオリーが仇となる。
田中は、初球の変化球で遊ゴロに仕留め、簡単に片付けた。

｢１点もやらない！ゼロに抑える。｣

Ｅ３−０Ｔ
交流戦最終戦。“注目の対決”と言われた田中対藤浪の先発対決であったが、ルーキーは早々に沈む。
格の違いを見せつけると共に、田中は“今季初完封”というストーリーを綴った。

田中将大の前では、野球は筋書のあるドラマと変わった。