屈辱と雪辱

“魂”と刺繍されたグラブを見つめて、再び則本はマウンドに立った。

楽天先発の戸村が、わずか２回２/３で降板した。３対４と逆転され、尚もニ死一､三塁の大ピンチ。

ルーキー則本にとっては、昨日５安打４失点を喫し、初回のみで後にした“屈辱”のマウンド。
ソフトバンクに傾きかけた大きな流れを、星野監督が強引に引き戻すべく、則本に賭けた。

まさに星野流“攻めの守り”が、勝ち気のルーキーの闘争心に火を点けた！
ニ死満塁から、８番ラヘアを空振り三振に仕留めると、グラブを「パーン」と叩き、体の呪縛を吹き払うように、大きく吠えた！！
「粘っていれば、打線が援護してくれる！」

則本の“魂”の投球に、打撃陣がすぐに応えた。
五回､無死一､二塁で銀次が左前に同点適時打｡なお1死ニ､三塁からマギーの遊ｺﾞﾛの間に勝ち越した｡

奈落から這い上がったルーキーが、負の連鎖を断ち切った。
終わってみれば、８対４の逆転勝利。

このルーキーは、わずか２４時間で、“屈辱のマウンド”を“雪辱のマウンド”に変えた。
「皆さんの応援が、僕らの力になります！」

ヒーローとなったルーキーは、一ヶ月ぶりの笑顔を見せた。

星野楽天は、ついに７２試合目にして、パ・リーグ単独首位に踊り出た。