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2013/08/11 00:22
青春の滴(しずく)
夏の高校野球甲子園大会。
大会3日目第4試合の仙台育英対浦和学院戦は、10対10の大熱戦の末、土壇場9回裏を迎えていた。
一死から、仙台育英8番打者・加藤君のカウントが0-1となった時、その光景が映った。
選抜を一人で投げ抜き、浦和学院を初優勝に導いた小島投手の左足が、動かなくなった。
甲子園は、19時を過ぎても34℃を記録していた。
熱中症か、疲労で筋肉が固まったのか、マウンド上で、屈伸運動をする小島投手の足は、機械の様に固まり、動かなくなっていた。
前の回の8回裏、仙台育英の無死満塁のピンチを、小島投手は12球全てを直球で、4番上林君・5番水間君・6番小林君を、三者三振で仕留めた。
全身全霊を込めた投球は、まさに最後の力であった。
ベンチの前で、水を3杯ほど飲んで、マウンドへ戻った。
満員のスタンドからは、温かい拍手が送られた。
しかし、彼の足はぎこちなく映った。
審判に一礼して、小島投手が笑った。
大丈夫じゃないのに、「大丈夫です。」と、言っている様子であった。
試合は再開された。
投手本能の精神力を振り絞って、さらに3球を要し、ニ死を取った。
しかし、小野寺君には、2-0から左前打を打たれた。
ここで、遂に小島投手が甲子園のマウンドを降りた。
スタンド全体から、拍手が起こった。
アルプス応援席から、彼の名前が連呼された。
ベンチに戻った小島投手が、悔しさを我慢しきれずに泣いた。
小島君から代わった山口投手が、粘られている。
ラストシーンが、近づいていた。
仙台育英の熊谷君に、3-2からの7球目を投じた。
変化球が、真ん中高めに浮いて、曲がらなかった。
勝負強い熊谷君が、棒球(ぼうだま)となった“ラストボール”を、思い切り引っ張った!
「キーン!」
大甲子園に、金属音が響く!
打球は、大歓声の中でグーンと伸びた!
ライン・ドライブが掛かって、レフトの遥か左を破り、甲子園の芝目を駆った!
白球は、ワンバウンドでフェンスへ達し、一塁ランナーの小野寺君が長躯ホームへ達した!
仙台育英11X-10浦和学院
春の覇者・浦和学院が、敗れた!
2時間59分の“死闘”は、筋書きのないドラマの歓喜と残酷な結末。
182球を投げ終えた小島投手は、動かなくなった体を震わせ泣きじゃくっていた。
甲子園の照明に照らされた涙は、まさに青春の滴であった…。