雨は、田中将大の交響詩…

田中将大が投じた3球目のスプリットを、代打福浦のバットが空を切った。

144kmを計測したそのボールを、福浦はわざと空振りした様に思えた。

E1-0M。
6回表、2死2･3塁と一打逆転のチャンス。
カウント1-2。

追い込んだ田中将大は、福浦が空振りした動作を、頭の中で整理していた。

雨が降りだしそうな仙台の夜空を見上げながら、「ふぅー」と息を吐いた。
脱力感を、演じて見せた。
天空から落ちて来た雨は、田中将大の交響詩。

福浦の狙いは、「合っていない」と見せた、決め球の“スプリット”。

田中将大が、セットに入った。
福浦が、マリーンズ応援団の声援に乗ってリズムを取った。

田中が、渾身の力を込めて第4球を投じた！
嶋のミットに糸を引く一投は、“ストレート”！

福浦のバットが、田中の唸る様なストレートに、僅かに振り遅れた！
“ズドーン！！”

「ストラックアウト！」
田中将大が、マウンド上で一回転し、ガッツポーズで雄叫びを上げた！！
その一球は、156kmを計測していた！

それは、エースの“闘魂の恫喝”であった。
そしてその恫喝は、チーム内の呪縛を振り払った。

田中はまたもや、ピンチを脱した。
そしてチームは、6回裏から“魂の打線”を取り戻していた。

絶対エースが、連敗を止めた。

お立ち台に立ち、笑顔で話すエースの声が、いつもより枯れているように聞こえた。

レフトスタンドには、「神様仏様田中様」と書かれたボードが踊っていた。

（楽天−ロッテ17回戦/E5-0M）