魂を込めて…

2万を越すイーグルスファンからは、大ブーイングが起こっていた。

9回裏、ついに土壇場で追いついた楽天イーグルス。
尚も続いた一死２塁のチャンスで、マリーンズ守護神の益田が、次打者の銀次を敬遠したからである。
E5-5M
一死1･2塁。

ネクストバッターズ･サークルにいた次打者の榎本葵が、ベンチの星野監督と目が合った。
「思い切って行け！打てる！」
星野監督が、激を飛ばした。
榎本は、ヘルメットのつばを掴んだ。

ドラマが今、クライマックスを迎えようとしていた。

入団3年目の榎本葵。
スコアボードに映った打率は.000。

まだ、あどけなさが残るその表情が、頼りなく見えた。
AJの代走から入ったその打席は、荷が重いように感じた。

マリーンズ益田は、ストレートで押して来た。

初球のストレートは外角に外れてボール。
2球目3球目は、ど真ん中のストレートを空振りした。

榎本は、3球で1−2と追い込まれてしまった。
しかし、4球目が外角に外れボール。

この1球が、榎本の目を慣らす事になった！
勝負球の5球目は、指に引っ掛かる内角低めのストレート！

器用にすくい上げた榎本のバットが、快音を残した！
「カーン！」
「ウォォォ！！！」
Ｋスタ宮城が、歓声に揺れた！
鋭く上がったその弾道は、眩（まばゆ）いばかりのカクテル光線に、一瞬吸い込まれた！

右中間を完全に越えたその放物線は、鮮やかな緑の芝生を2バウンドしてウォーニング･ゾーンへ達した！

逆転サヨナラ！！

星野監督が、榎本の頭を3度、4度と叩いていた。
ニュー･ヒーローの誕生に、スタジアム全体が酔いしれた。

優勝の軌道から外れかけたチームが、またレールの上を走り始めた。

そこには、試練を一つ乗り越えた“強さ”があった。

（楽天−ロッテ19回戦/E6X-5M）