母さん、見守ってくれよ！

8回1死から、楽天イーグルスのマウンドには、長谷部康平が上がった。

長谷部は、この二日前に最愛の母を亡くしていた。
マウンドに集まったマギー、松井、嶋らに声をかけられ、長谷部が少し笑って見せた。

投球練習をしながら、亡き母への思いが込み上げて来る。
前日と前々日で、母とはじっくり語り合って来たと言う。

〜さあ、勝負だ！〜
マリーンズの打者は、代打岡田。
長谷部の顔が、引き締まった。
セットに入って、グラブを口元に持って行きながら、そっと呟いた。
「母さん、見守ってくれよ！」

母に捧げる投球が、今始まったのだ。

小気味よいピッチングで、岡田を3球でニゴロに打ち取った。
次打者の鈴木大地を2球で追い込み、最後は気迫の直球で、見送り三振に仕留めた！

投げ終えて、マウンドを降りる長谷部に、ナインみんなが声をかけた。
うん、うんと頷きながら、長谷部はベンチに戻った。
ベンチの奥に腰を下ろすと、もう涙を抑え切れなかった。
顔を伏せて、号泣した。

斎藤隆が、長谷部の頭を撫でて抱きしめてやっていた。
両方の袖で、何度も何度も涙を拭った。
涙が、止まらなかった。

母はきっと、この空の何処かから、息子の誇らしい姿を見ていたであろう。
そしてきっと、先に逝った父と二人で、これからはずっと彼を見守る。

斎藤隆が、ウイニング･ボールを長谷部に渡した。
長谷部は、このボールを母の仏壇に供えるという。

次の日、2回を1失点の長谷部が勝ち投手となった。
天国に行く前に、母が息子に、最後のプレゼントを送ったのかも知れない…

（楽天−ロッテ18回戦/E7-5M）