一、ニ塁間！抜けた！！

重苦しい雰囲気であった。

楽天先発の美馬が、中７日の間隔を空けた。
自らの２７歳の誕生日であった。
「調子は、良くなかった。」

毎回のように、美馬の背後にはランナーがいた。
それでも「低め」を意識して投げた。
低めに行くと、今季４度目先発マスクの伊志嶺が逸らした。

大事なところで、呼吸が合わなかった。
投げたいボールと、要求されるボールが違っていた。

バッテリーの相性は、「最悪」に見えた。

美馬のボールカウントが悪くなる度、松井稼頭央がマウンドに行った。

それでも美馬は、集中していた。
７回まで１失点で凌いだ。
２対１で迎えた８回表、２番手の青山が、同点とされた。

粘投の美馬の、勝ちが無くなってしまった。
前夜の悪夢が、繰り返される気がした。

２対２で向かえた９回裏一死。
松井稼頭央が、ツーベースで出塁した。

重苦しい雰囲気を破ったのは、伊志嶺であった！

フルカウントまで粘った伊志嶺が、ホークス抑えの五十嵐が投じた７球目の150kmストレートを弾き返した！

一、ニ塁間！抜けた！！
ライトの江川が、浅く守っていた分「際どい」タイミングでバックホームだ！
松井稼頭央が懸命にホームへ！
ボールは一塁側へ大きく逸れた！
ホームイン！ホームイン！
楽天、サヨナラだ！

歓喜のシャワーを浴びる伊志嶺が、最後に輝いた。
美馬のバースデーを、「悪妻」が勝利へと導いた。
「チームがサヨナラ勝ちしてくれて、（誕生日の）いい思い出になった。」

歓喜の輪が、Ｋスタ宮城に広がっていた。

勝利の花火が仙台の夜空に上がった。

その彼方には、煌々（こうこう）と輝く満月が浮かんでいた。


（E3x-2H/楽天−ｿﾌﾄﾊﾞﾝｸ23回戦）