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2019/07/29 14:50

山高帽を脱ぎ捨てて(7/27ゴルコンダ)

「これだけたくさんの男が同時に現れるとそれぞれの個性を考えることはなくなる。
山高帽の男たちはごくふつうの目立たない平均的な人間である。」 By.ルネ=マグリット

慎ましく目立たない生活を好んだと言うベルギーの画家が、本人の意思を投影したこの淡々とした作品に、画家の友人は富で栄えたと言う幻の都市の名を付けた。浮遊と落下と言う矛盾する要素を表現しているキャンバス同様、タイトル自体にも相反による一種のハレーションが生じているかのようだ。
そして時は流れ2019年。牝馬にそぐわない勇ましい名を持ち華麗な戦績を残したフランスの母と日本馬として初のドバイG1を制した「勝利の山」の意がある仏語名の父の間に生まれた子に、奇しくもゴルコンダと言う、その都市名が付けられた。

デビュー戦、大きな体躯に見合った不器用だが力強い走りで勝負所にインから抜け出て勝ちに行った若駒は、最後伸びを欠き、評判の人気馬に完敗、3着となった。それから1月半..叩かれて才能ある画家のようなインスピレーションを得たか、調教での良化も著しく脚抜きも軽くなったと木村師に評価されたゴルコンダは開幕週の札幌へ渡った。新馬戦の手綱はオーストラリアの若き天才ジョッキーで、その名のままに競馬の教育レーンを敷いてもらったと言ったら軽口も過ぎるか。そして2戦目の今回は現最強騎手と言って憚らないクリストフ・ルメールに彼の鞍上は託される。
デビュー後の能力が弾けたかのような良化、その走りから合うだろうと選ばれた北の大地の洋芝とコース、陣営の期待そのもののヤネ、少頭数となった番組に出脚さえ決めれば開幕週の真っ新なターフを気分良く行けるであろう大内1枠1番。死角はほぼ見当たらず、もはや負けの言い訳はし難い。ゴルコンダは当然に1.4倍と言う抜けた1番人気を背負った。西から上ってくる台風に不安定となった曇天の空の下、デビュー戦から16kg減らしてシェイプされた鹿毛の体が1番にゲートへ納まる。鼻先から額へいったん縮まった後に広がっていく特徴ある流星の顔が気負いを払うかのように一度、二度と大きく縦に振られ..。

スタートが切られた。出脚の良い馬が多い中、スッと卒なく自らも前へ出ていくと、ゴルコンダは内枠の利を生かして最初のコーナーまでにハナを取り切る。回しながら早くも雁行してきた対抗人気のプントファイヤーとベテラン岩田康誠がその新馬戦でも勝馬に張り付き通して勝ち負けに粘った本領を発揮し、マイペースの逃げに入ろうとするゴルコンダを徹底マークする。次第に上がって行くスピード、1キロ時点で60秒を切ったハイペースは傍目には人気前2頭による忍耐のチキンレースの様相と化したかのように見えた。
逃げを決め込む本命を消耗させる..岩田騎手にとってはしてやったりの展開を迎えた3,4コーナー。未だ並ばせないゴルコンダに残された体力と気持ちの強さに賭けようと、祈るような思いで最終角を回って行く両者を見つめる本命買いの人々。
 2頭が追われると瞬く間にプントファイヤーの後ろはまとめて置いて行かれ始めた。がしかし、場内のどよめきはハナを譲らないルメール騎手とその騎乗馬の直線にこそあった。
 馬群を取り残していく2頭の倍の勢いで、2番手自体との距離を広げていくゴルコンダ。持ったままのルメール騎手が軽く促すごとに..その一完歩ごとに...その差は驚異的に広がって行き、最後、真後ろまでしっかりと鞍上が振り返って確認し、手綱を抑えて流したゴール板。ゴルコンダは後続に5馬身差をつけた2着馬プントファイヤーに大差(1.8秒差)をつけ、13年ぶりにコースレコードを更新した。

ルメール騎手談「自分のペースで落ち着いて走れ、段々と加速していくことが出来た。負けた新馬戦は強い相手だったが、このタイムで走れるのだから能力はあり、楽しみ。」

初戦は被ったままの結果となり個性は目立たずに埋もれたが、2戦目でゴルコンダは山高帽を脱ぎ捨てた。それも思わぬほどに高々と放り上げ、2歳の最前線を希望に満ちた双眸で睨みつける表情を露わにした。
なぜあのシュルレアリスムの絵画にあのタイトルがつけられたのか。この若駒の行く末を共に見ていけば、その答えの一端を、もしかしたら理解できるのかもしれない。

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