7件のひとこと日記があります。
2014/07/21 04:22
望みは赤く強く
私の競走生活は短いながらも良きものだった
デビューから2戦に私の敵は誰もおらず、それはG1でも続くものだとその時は思った
そんな私の鼻柱は無残にも折られてしまった、「あの馬」が現れたのである
重賞初挑戦にしてG1連対、そう言ってくれる人たちもいたが、私は負けたのである
そこで「相手が誰だろうと勝つ」「G1をいくつも勝つ」抽象的だった私の目標は「あの馬に勝つ」に昇華した
二度目の晴れ舞台でも私はアイツには勝てなかった、同じ時計で駆け抜けようがアイツは必ず前にいる
父マンハッタンカフェは言った「ライバルの強さが自分の強さになる」と
秋のG1で悲願を達成した父の言葉に偽りはなく、私は二度の負けを飲み込み、決戦の舞台を思い続けた
秋華賞、ついにアイツを倒し私はG1馬になった
しかし、そこにはひとつの区切りがあるだけだった
1勝2敗、まだ負け越している
だが私はアイツのライバルとしての資格を得た
次走のジャパンカップ、アイツによく似た馬ウオッカは強かった
私も3着に入ったとはいえ、ウオッカには完敗だった
なんでも私は3歳馬としては2400最速らしいが、そんなことははっきりいってどうでもよかった
私はアイツが一番強い競走馬であると信じていた、だからここで負けたくはなかった、それだけだった
だから、次は絶対に勝つと心に誓った
4歳になり、ドバイ遠征が決まった
おあつらえ向きにここにはウオッカも参戦した
そしてウオッカに負けず劣らずな海外の強豪達
それでも私は、ここを勝つと確信していた
振り返れば一年近く前のあのレースでも私は同じことを思っていた
しかし違うのは、私にはとっくの昔に虚栄心は捨てていた
そして私は、海外重賞ウィナーとなったのだ
それでも、次走のヴィクトリアマイルではアイツに勝てなかった
さらに運の悪いことに私は鼻出血、目の前が真っ暗になった
翌年にすべてをかけて出走するはずだった天皇賞、しかしもはやそこに私の席はなく、アイツも4着に敗れていた
私の中で張り詰めていた何かが切れた瞬間だった
それから2週間後、私は引退してなおアイツの――ブエナビスタという壁の高さを改めて知るのである
友よ、ついに私はあなたを超えられなかった
友よ、私は結局あなたのライバルになれたのだろうか
友よ、私の瞳に映り続けていた憧れよ
あなたの瞳に私は映っていただろうか
今、私は子作りに勤しんでいる
私の夢を継がずとも、私の遺伝子から何かを感じ取ってくれれば、それが何かこの子のためになれば、と思う
私がマンハッタンカフェから感じ取ったものがあったように
しかし、もしこの子が私の夢すらを継ぐような馬になった時には、あの馬の――ブエナビスタの物語を話そうと思う
そうして競馬の歴史、思いは積み重なっていくのだから