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2013/06/25 16:10
今は、子供の気持ちを受け止める事だけに心を注いで下さい。躾の事は忘れましょう。
『家族がよみがえる時』
金盛浦子(東京心理教育研究所所長)
昨年一月、地方から相談の為に、上京した家族がありました。
悩みとは、五歳と二歳の子供が、いつもぐずって手が付けられないと言う事です。
ことに長女は神経質で、不安傾向も強く、不潔恐怖の兆候も見られ、
歩く時は、爪先立ちになり、まともに物を掴む事もできない状況でした。
お母さんのAさんは、自分と性格が全く違うタイプの、
長女に、イライラしどおしなのだそうです。
ひとしきり、Aさんのお話を伺った私は、
今は、子供の気持ちを受け止める事だけに、心を注いで下さい。
躾の事は忘れましょう。
と、伝えました。
躾の前に、まず子供の気持ちをしっかり受容して…、
疲れきった、子供の心を癒すのが先決です。
乳幼児期に十分受容され、心の安定が図られなければ、思春期に親に無茶な要求をしてきます。
少年時代に、反抗期を経なければ、それは青年期に、
親の力を上回るほどの、エネルギーで現れます。
中学三年生の息子の事で、相談に来ていたご夫婦が息子に…、
『通帳と実印、家の権利書を渡せ』と、迫られた事がありました。
ご夫婦は、最初迷いましたが、今、全力で要求を受け止めなければ…、
彼はどうなるかわかりませんよ、と話すと決心して子供の求めに応じたのです。
すると彼は『中学三年生の俺に、こんな物を渡すなんて、何考えているんだ』と言い、その場で一式を親に返しました。
その後、彼の問題行動は解決へと向かいました。
親の捨て身の決意が、家族のターニングポイントとなったのです。
私は、愛情には三つの段階があると考えています。
幼少期には、しっかり手をかける愛情で、子供の心を満たします。
次は、子供が成長する様子を一歩ひいて見守る愛情…、
そして最後は、子供の意志が、親の望まない事であっても、認めて尊重する愛情です。
手をかける愛情は、互いが満たされるもの。
けれど後の愛情は、親にはその場の満足感はなく、辛さすら伴います。
けれど、自分の思いを心に、留めて見守る時間は、親の心に子供への信頼感を育てます。
すると、子供は安心して冒険が出来ます。
その子は、失敗して辛い思いをすれば、母親のひざ元に帰ればいいと、ちゃんとわかっているからです。
相談を受ける最中、親が涙ながらに、自分の子供時代の体験や、当時の思いを語る場面に出会います。
長年抱えてきた、重荷を初めて降ろし、自分を深く見つめる瞬間です。
その時私は、家族が迷う道の向こうに、射し込む一条の光を見る思いがします。
問題のさなか、明日をも知れぬ思いで、葛藤の時期を過ごすとしても…、
それはその家族が、出合うべき意味のある一場面、その時に必要な一歩だと私は信じています。
たとえ、それが時には何年にも及ぶ、いばらの道になるとしても、決して無駄な道のりではないと。
Aさんとの約9ヶ月にわたる、電話相談の終盤で…、
ご主人が初めて電話に出て語った言葉が、とても印象的でした。
去年の今頃は、家の中が荒れていて、帰りたくないと思った事が何度もありました。
今は妻や子の笑顔を見に、家に帰るのが、楽しみで仕方ないんです。
その言葉は、子供たちの心を、代弁してくれるものでしょう。
実に清々しい声でした。
子供の思いを、精一杯受け止めたAさんの努力が、家の中に灯した明かり…、
その温かな光のもとに集う、家族の笑顔が目に浮かぶ、素敵な出会いでした。
以上です。
合掌。( ̄人 ̄)